2022年12月16日号 Vol.436

悩める地球人からのS.O.S
失われ行く人類の善意(2)

▶︎中国
覇権主義の暴走


この国は「民主」という言葉は頻繁に使うが、民主主義には縁がない。権威主義の典型と言える国である。

2013年に国家主席に就任した習近平は慣行を破って3期目に入る。毛沢東以来のことで、終身務める気でいるようだ。演説のたびに繰り返す決まり言葉は、「中華民族の偉大な復興」――アヘン戦争でイギリスに敗れて以来、欧米列強と日本の蹂躙の下にあった1世紀あまりの屈辱からの「復興」だという。建国100年となる2049年までに「社会主義近代化強国」を作り上げ、「世界諸民族の中でそびえたつ存在」になる……経済面では「中国製造2025」、外交では特色ある「大国外交」を展開して巨大経済圏構想「一帯一路」を実現、国民向けには資産格差を解消して「共同富裕」の社会を作る……激越な覇権主義である。

その前提となるのは、中国共産党による一党支配の強化だ。国中に監視カメラを張り巡らして国民の一挙手一投足を把握し、共産党の「喉と舌」となるメディアを完全掌握し、外資も含めた国中の企業に共産党への平伏と忠誠を誓わせ、党の方針に逸脱した行動は許さない……善意のかけらもない。

武漢発の新型コロナが流行する兆しが見えると、「建国以来最大的危機」として徹底した「ゼロコロナ」政策に乗り出した。私は、このウイルスは中国共産党による生物兵器開発の過程で漏出したと見ている。建国以来の最大危機になるようなウイルスを国内外に盛大に放出しておいて、国内での感染は非常手段で暴圧するという、真に身勝手な政策にこそ、問題の本質が潜んでいる。効き目はともかく、ワクチンまで用意していた。

厳格なロックダウンに息の詰まった若者たちが、11月末になって北京、上海、成都など数都市で抗議デモに繰り出し、上海では「習近平退陣」の叫びまで聞かれたが、中国メディアが報ずることは全くなく、内外記者会見での外務省報道官は「そうした事実はない」の一言。

南シナ海などでの一方的領海宣言に基づく実効支配の拡大と軍事基地化は、国連海洋法に違反し、国連憲章が規定する現状変更の禁止にも背くものだが、これをしも「中国流解釈」の一言ではねつける。

近年、こうしたやりたい放題は拡大の一途をたどり、「一国二制度」の約束で返還された香港は、共産党の完全支配下に入れてしまった。


2022年2月、北京で会談を行ったプーチン大統領(左)と習近平国家主席  (Photo : Presidential Executive Office of Russia)

▶︎ロシア
絶対悪プーチン


いま国際社会でも最も厄介者、ならず者とされているのがこの国だ。

2月24日、「特別軍事作戦」の名でウクライナに侵攻した。20年余も大統領ないしは事実上の最高指導者として君臨してきたウラジーミル・プーチンの決断だった。「ネオナチに虐殺されている親ロシアの人々を解放するためだ」と、誰にもわかるウソの理由を掲げた。当初は首都キーウに迫り、2週間程度で制圧して傀儡政権を立て、ウクライナ全土を手に入れる考えだったようだが、杜撰極まる作戦が破綻。西側兵器の大量支援を受けたウクライナ軍の反転攻勢にあって、いまや劣勢にある。前線のロシア兵は疲弊し、戦意を失っている。装備の多くも失われた。

だがプーチンに戦争をやめる気配はない。

私の見るところ、独裁者プーチンには被害者意識が強い。KGB(ソ連国家保安委員会)の少壮将校として東独ドレスデンに駐在していた時、冷戦の終結による「ソ連の敗北」を目撃した。「西側諸国の指導者は大国ロシアをバカにし嘲笑してきた」と本気で思い続けてきた。「いつかは見返してやる」という強い思いがあり、それが西側への傾斜を強めていたウクライナへの軍事侵攻につながった。世界中が「プーチンはウソつきだ」と非難しても、彼の意志は変わらない。善意とは無縁の男である。

「軍事目標以外は攻撃しない」としながら、2月の開戦から9ヵ月間にロシア軍が撃ったミサイル1万6千発のうち、軍事目標は約500発にすぎなかった。最近はウクライナ市民を凍えさせるために発電所などへの攻撃に狂奔している。戦争に冬将軍の力を借りるのは帝政ロシアがナポレオンを破って以来の伝統だ。

いま西側諸国に迷いが見られる。このままウクライナに対する兵器・装備の援助を続け、ロシアに負けない状況を維持すべきか、それともウクライナを説得して停戦交渉に入るべきか……西側には断固とした意志と想像力が欠けているように見える。主権国家侵略というロシアの「絶対悪」を見逃がせないと言いながら、ロシアとの決定的な対立は避けたい、そして政治家としてのプーチンの力量・資質・真意をいまだに測り兼ねている。大がかりではあるが通りいっぺんの経済制裁を数多く重ねたところで、確信犯であるプーチンの意志は覆らない。

プーチンは成功の見込みが少ないことに大きなリスクをとることを拒まない冷静なギャンブラーだとの観察に接したことがある。来日したゴルバチョフが私との面談でポツリ漏らした。目前の敵を出し抜く悪知恵も備えている。ロシア国内に反プーチンの空気が充満して失脚に追い込むのをひたすら待っているようでは、ウクライナは、そして世界は永遠に救えないだろう。



▶︎欧州連合
統合欧州は夢か


冷戦期のEC=欧州共同体がEU=欧州連合に進化したのは1993年11月のことだった。グローバリズムの勃興と軌を一にしていた。50年代から統合への歩みを始めていた仏独伊とベネルクス3国の6ヵ国にイギリス、デンマーク、アイルランド、ギリシャ、スペイン、ポルトガルが漸次加わった12ヵ国。United in Diversity=「多様性の中の統合」をモットーとした。

その後95年にスウェーデン、フィンランド、オーストリアが加わり、2004年の「東方拡大」ではポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの東欧4カ国と旧ソ連のバルト3国、旧ユーゴから最初に独立したスロベニア、それに地中海の小国マルタ、キプロスを含め計10ヵ国が一度に加盟した。07年にブルガリアとルーマニア、13年にはクロアチアが加わって28ヵ国に膨らみ、加盟候補国も増えたが、以後の新加盟はない。逆に、通貨ポンドの維持など数々の特権を与えていたイギリスが20年1月に離脱した。

急拡大は加盟国間の不協和音も生み出した。当初から旧西欧工業国と、新加盟の東欧諸国の間には大きな経済格差があったが、これがなかなか縮まらない。強過ぎるドイツ経済については、東欧だけでなく南欧諸国からも不満が高まった。


現EU加盟国(27ヵ国)アイルランド、イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、キプロス、ギリシャ、クロアチア、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ(加盟時西ドイツ)、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マルタ、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、ルクセンブルク

政治的にも不調和が広がる。イギリスは連合の負担金が加盟しているメリットより大きいと脱退を決めた。ハンガリーでは反社会主義運動の闘士だったオルバーン・ヴィクトルが10年に2度目の首相になって以来民族主義的な長期政権を敷き、EUによる司法・メディア・教育への介入、シリア難民の受入れ、同性愛禁止などで対立を深める一方、中国・ロシアへの接近を強めている。ポーランドでは、15年にカトリック右派の保守政党「法と正義」が政権を握ると、強権支配への動きを強めた。EUは欧州司法裁に提訴して、1日100万ユーロの制裁金を課す判決が出たが、政権寄りとなったポーランド憲法裁は、EU法で国家主権が制約され、憲法が国内最高法として扱われない状況を違憲と認定して対立を深めた。イタリアでも22年10月、ネオファシストのルーツを持つジョルジャ・メローニが首相の座につき、今後EUとの確執が懸念されている。

まとめ役のドイツ首相オラフ・ショルツは、ヘルムート・コールやアンゲラ・メルケルといった前任者に比べると格段にスケールが小さい。フランス大統領エマニュエル・マクロンはスタンドプレイが目立つだけで実効が乏しい。

ポーランドについては、ロシアがウクライナに侵攻した時点で、ロシアとの対決姿勢を鮮明にしたのをEUが称賛して支援を強化する姿勢に転じているが、「多様性の中の統一」は容易ではなく、連合内部の経済格差に加え、加盟国間の価値観の違い、国内世論の違いが表面化することが多くなった。
「大欧州統合」の理想は遠ざかりつつあると言えそうだ。

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