2020年12月18日号 Vol.388

オウチで楽しむ世界の音楽
「グローバルフェスト」(1/2)

新型コロナウイルスは世界を一変させた。ライブ会場への道は閉ざされ、アーティストもオーディエンスも自宅に軟禁状態、両者のコミュニケーションは「オンライン」という新次元へと移行した。音のオアシスを提供するワールド音楽の祭典「グローバルフェスト(globalFEST、以下・gF)」は、ウィズコロナの中で存続する道を見い出す。今回はNPR(National Public Radio)が2008年から続けるプラットフォーム「Tiny Desk Concert」を舞台に、世界に向けて発信する。(河野洋)



「民クル」アメリカデビュー
日本の民謡が世界を繋ぐ!


今年のラインナップでひときわ目を引くのが「民謡クルセイダーズ(以下・民クル)」。グローバルフェスト18年の歴史で、日本からの出演は2005年、津軽三味線デュオの吉田兄弟のみ。同胞が世界の舞台に立つという意味でも、のっけから期待が膨らむ。今回は民クル・リーダー兼ギタリストの田中克海に話を聞いた。

バンド結成は、東日本大震災が起きた2011年。日本人の誰もが「生命の尊さ」を身にしみて感じ、生き方を見つめ直した時ではなかっただろうか。

「コロナ禍で世界の動きが止まった中、個人と社会の繋がりを考える時間ができました。自分に何ができるのか、日本人としてのアイデンティティを考え直したいという気持ちが湧いてきました」

当時、自身の地元・福生市(東京都)を中心に、ブルースやソウル、ラテン、アフロなどの世界のルーツミュージックを愛好、バンドでセッションを繰り返していた田中。仲間のフレディ塚本(ボーカル)の存在が気になっていた。普段はソウルを歌いながら、民謡の歌い手という肩書きが「日本のルーツ音楽」を探るヒントになると睨んだのだ。やがて、意気投合した二人が核となり「民謡クルセイダーズ」が始動。地元パーティでのライブで手応えを感じた田中は、メンバーチェンジを繰り返したのち2016年、現在の第4期メンバー10人を固めた。

バンドのコンセプトは、田中がリスナーとして各国の古いレコードを聴き漁っていた頃に発見した、優雅で演奏技術の高い「東京キューバンボーイズ」(1949年〜)や「ノーチェクバーナ」(1954年〜)だ。

「僕たちは、彼らが当時醸し出していた時代と呼応した空気感がとても好きです。彼らの音楽性をそのまま継承していませんが、民謡を洋楽のフォーマットでアレンジするアプローチに影響を受けました。美空ひばりや江利チエミといった、昭和期のポピュラー歌手が歌う民謡のバックで、ジャズやラテンを演奏する。中でも土臭さいフィーリングを持ったラテン音楽やアフロ音楽を取り込んだ、ワールドミュージュックとしての『日本民謡』を、試行錯誤してきました」

メンバーのほとんどが民謡のことを知らないという背景も手伝っていた。
「実は僕も民謡は苦手で、『終わった音楽』として認識していました。そこでまず、誰でも口ずさめるほど、慣れ親しまれた『炭坑節(福岡県)』や『串本節 (和歌山県)』などの民謡の名曲から取り上げ始めました。民謡は、説明しなくても皆が楽しめる共有財産。日本では誰もが楽しんでくれます。一口に民謡と言っても、その長い歴史の中、実際にはジャンルが違うと思うほど多様性があります。歌謡曲的なもの、労働歌、反復され陶酔感をもたらす儀式的な歌など、探していても面白いのです」。今でも、新しく発見した時の驚きを失わない様に曲作りをしているそうだ。

民クルの音楽は素材が民謡で、リズムのバックボーンがワールド音楽。これは、「なんでもござれ!」の鍋料理に近い。彼らのデビュー・アルバム「エコーズ・オブ・ジャパン」(2017年)を聞けば、その旨味が堪能できる。秋田県の「ホーハイ節」は、こってりとしたアフロ・キューバンで、熊本県の「おてもやん」は、レゲエ風味のダシが効き、福島県の「会津磐梯山」は、コクのあるラテンに調理…と、どれも舌鼓を打つ。

アルバム・ジャケットは、民クルのハッピを着たメンバーがスクラムを組み、祭りから抜け出したような、大黒、ナマハゲ、ひょっとこなどのお面を並べた賑やかなデザイン。「デザイナーの木村豊さん(Central67)のアイデアです。素性がわからない突然変異の様な僕たちの音楽性を打ち出して、海外の人が見ても面白いと思われるアイテム(お面)を使用しました」と、イメージ戦略でも「民クルらしさ」を追求する。

「最近、様々なアプローチで日本民謡に取組む動きが、同時多発的に出現しているのが面白い。その中でも僕たちの音楽は、観賞用のアートではなく、パーティーやお祭りといった、皆と楽しめるダンスミュージックでありたいと思っています。国や人種が違っても、世界の大衆音楽も日本民謡も、皆が一緒になって楽しむという意味において一つに繋がっています。それが、世界中で共有できるバイブレーションなんだと思います」

そんな姿勢を貫いてきた民クルは今年10周年。記念すべき節目の2021年に満を持して米国デビューを飾る民謡クルセイダーズ。コロナ渦中、身動きが取れない状況はもうしばらく続きそうだが、日本の民謡を軽快なラテンのリズムに乗せた民クルが、鬱積した気持ちを吹き飛ばしてくれることは間違いない。(次ページ:出演者紹介)

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