2019年12月20日号 Vol.364

世界の音楽を一夜で「体感」する
グローバルフェスト

新年の幕開けに相応しいワールドミュージックのオリンピック「グローバルフェスト(globalFEST、以下gF)」。今回で17年目を迎える同音楽祭は、前回同様、ミッドタウンのコパカバーナで1月12日(日)に開催される。この一夜の為に世界から集まってくる12組のアーティストたちが、一つの屋根の下、3つのステージに分かれてファンを魅了する。 今年のラインナップはバランス良く、男女の各ソロとグループ、男女混合編成のグループで、出身地、拠点の分布図を見ても、北米、南米、欧州、アフリカ、アジアと地球全体がカバーされている。その中から、2人の女性アーティストにスポットを当てた。(河野洋)


フランス人の父とベネズエラ人の母の間に生まれた自称遊牧民のラ・チカは、パリ(フランス)と、自然に包まれたメリーダ(ベネズエラ)で育つ。現在の拠点はパリとメキシコシティ。「生涯演奏家」と言うチカは、最初にバイオリンを始め、次にピアノの虜になった。13年間クラシック音楽を学び、中でも20世紀初頭のドビュッシー、ラヴェル、フォーレが大のお気に入り。
その後、ハービー・ハンコックやブライアン・イーノなどの電子音楽の洗礼を受け、シンセサイザーに興味を持つ。カメレオンのように自分の演奏スタイルを変え、多種多様なバンドで経験を積んだ。そんなある日、オリジナル音楽で自分を表現する必要性を感じ、昔から詩を書き続けていたこともあり、詞をメロディーに乗せる楽しさを覚え、「ラ・チカ」が誕生した。
彼女のPVはどれも斬新でユニークなものが多く、ポスターなど連なるイメージの一部が常に動きながら映像のように流れる「Be Able」、モノクロとカラーが混在する中で変幻自在に一人二役を演じる「Sola」など、音と映像が絶妙のコンビネーションでシンクロしていく。
「音楽と同じくらいイメージが大切。私の頭の中では、作曲の初期段階でイメージ、カラー、そして風景が見えています。音楽ビデオを通して、私の大好きなアートを映像化したいと考えています。ジャン=ミシェル・バスキア、ストリートアート、描写、コラージュ、ダダイズム、フリーダ・カーロ、シャガール、ラテン・アメリカのカラーアートなど、私はアートの力を信じているんです。(私が)芸術家たちに影響を受けたように、オーディエンスの心にも深い感情を生み出したいと思っています。音楽を創作する理由は、頭の中から離れない感情、夢、悪夢、ノイローゼを、音楽という形にすることで解消できるからです。起きていても夢を見てしまうことがあるので、そうした時の気持ちをかき集め、もう一度作り出す作業なんです」


チベット生まれのヤンチェン・ラモは、現在、ニューヨーク在住。母国と異なる環境の中、チベット人としてのアイデンティティを保つことは容易くないだろう。
「私は幸運にも、慈悲深く、教養ある両親に育てられました。無条件の愛と優しさを育む大切さを学んだのです。チベットでは、『私』や『個人』は重要視せず、人々と繋がり、助けあうことが人生の幸福と信じています。困難があっても、私の中に育まれたチベット文化と知恵があるから、いつも平常心を忘れず、世界に対して楽観的でいることができるのです」
世界へ踏み出したきっかけは、ヤンチェンが自らに課した愛と思いやりを学ぶため、インドへ巡礼の旅に出たことだった。豪州でチベットのマントラを録音するプロジェクトに参加したヤンチェンは、その経験にインスパイアされ、アルバム「Tibetan Prayer」を完成。同作は1995年豪州のARIAミュージックアワードの最優秀ワールド音楽アルバムを受賞。それが、ピーター・ガブリエルの目にとまり、彼が運営するレコード会社との契約に繋がった。その後も、アニー・レノックスを始め、多くの英米のアーティストと共演している。
「ナタリー・マーチャントとピーター・ガブリエルの二人には感謝してもしきれません。彼らのおかげで計り知れないほどのインスピレーションと力を与えてもらっています。私はソロでも誰と共演しても、人間の声の振動力が、リスナーに心の平和をもたらし、人間が持つ、創造、積極さ、思いやり、変化する特性を解放させることができると信じています」
そんな思いから、近年は「One Drop of Kindness Foundation」という非営利団体でチャリティ活動に尽力。ホームレスや障がい者、老人たちに少しでも安らぎを与えられたら、と願う気持ちを原動力としている。
「今回のgFでは、3つの楽しみ方を用意しました。まず視覚と聴覚を私一人に集中してもらうソロ、観客のバイブとエネルギーを集結させて一緒になって歌う合唱、最後にスティングやシンディローパーなど有名アーティストと共演した一流ミュージシャンとのパフォーマンスです」
チベットの歌姫のスピリチュアルボイスが至上の愛と優しさで観衆を包むことだろう。

★その他、出演アーティスト



アクダーン・グワングチルは、女性民謡歌手トリオがフロントを務め、6人の古典楽器奏者がバックを支えるグループ。脈打つリズムと波打つ旋律が伝統に新しい生命に吹き込む。韓国のシャーマン・ファンク。

2009年に結成されたニューヨーク初見参のボヘミアン・ベティヤーズ。パンクとフォークをミックスしたスピード感あふれるザ・ポーグスのハンガリアン・ジブシー版といったところ。



セネガルからやってくるのは一匹狼のシンガー、シェイク・ロー。音楽は、クールに、スピリチュアルに、ポップに、軽やかに、どこまでも広がるアフリカの大地と大空がふんわりと目に浮かんでくる。

米国デビューを飾るレザマゾネ・ダフリックは、西アフリカの女性スターシンガーたちが集結したスーパーグループ。オーガニックでありながら、突き抜ける力強さはアフリカン・ソウルのタフネスさを象徴しているかのよう。



メクリトはイェール大学を卒業した知性溢れるシンガーソングライター。2015年、鋭い洞察力を活かした彼女のTEDトークは話題を呼び、母国エチオピアでも大きく取り上げられた。アフリカン・フレーバーを散りばめた初々しいエチオ・ジャズ。

アメリカ南部から、ネイサン&ザ・ザディコ・チャチャズがステージを賑わす。軽快でブルージーなネイサン・ウィリアムスの弾けるようなアコーディオンが炸裂するルイジアナ産のザディコ音楽。これを聞いたら体が否応無しにダンシング!



フランスのサン・サルバドルは、巧みに紡ぎ織り込んでいくポリフォック・オーケストレーションと、力強く響くエスニック・パーカッションを融合したボイス&リズムの神秘な音楽ワールド。

1920年代、アルジェリア西部で生まれたアラブ音楽ライ(Raï)。gF2020で米国デビューを果たすのはソフィアン・サイディ&マザルダ。エレクトロ・グルーブのビートに乗せて、地を這うようなソフィアンの低音ヴォイスがサイケデリックに絡み合う。



オランダを拠点に活動するトゥファン・デリンス。トルコ、シリア、イラン、イラクにまたがるクルド人の血と文化を祝い、表現するウェディング舞踊曲を激しいエレクトリック・サウンドに乗せて聴かせる。

ブラジルのバイアからは、デビューアルバムが2018年にラテン・グラミーにノミネートされた実力派シンガー、シェニア・フランサが登場。アフロ音楽に、エレクトロニカ、ジャズ、R&Bが程よくブレンドされたサウンドは、未来のブラジル音楽を予感。

globalFEST 2020
■1月12日 (日) 6:30pm
■会場:The Copacabana
 Times Square
 268 W. 47th St.
■$50
www.copacabanany.com
www.globalfest.org



HOME