2019年12月20日号 Vol.364

スターウォーズに魅せられた少年
40歳半ばで映画監督へ転身
映画監督 夜西敏成



「小学6年生の時、ジョージ・ルーカス監督の『スターウォーズ』を観て、こんな映画を作りたい、映画監督になりたい! と思いました」と話す夜西敏成(よにし・としなり)監督。40歳半ばを過ぎて、サラリーマンから映画監督に転身。これまでに2本の長編ガンアクション映画「サファイア ー アルティメット・ファイアファイト」(2016年)と、「スティールアンジー」(2019年)を発表している。
「スターウォーズで何より驚いたのは特撮技術。当時、日本の特撮映画では飛行機などの模型をピアノ線で吊った『ワイヤー操演』が常識。映像の中に時折光るピアノ線が見えて、子ども心に、『模型の撮影だし仕方ないのかな』と思っていました。ところが、スターウォーズは違った。スピード感、模型のサイズ感、Xウィングやタイファイターは回転しながら飛行、ピアノ線では不可能な動きに、とてつもない衝撃を受けました。映画を観ながらピアノ線を一所懸命探しましたが(笑)どこにも見えない。正にカルチャーショックでした!」と、当時の興奮を口にする。
「その時から、ハリウッドのスペシャルエフェクト(SFX)技術に興味を持ちました。私も将来、みんなをびっくりさせるような映画を作りたいと思うようになったのです」
日本のヒーローものも好きだったが、西部劇好きな父の影響で、ハリウッド映画もよく観ていたそうだ。
「ガンアクションが好きになったのは、西部劇や戦争映画、ギャング映画の影響が、大きいと思います」
友達と西部劇ごっこやヒーローものごっこをしていたという夜西少年。「遊びながら友達の動きに注文を付けていましたね。映画のような『シーン』を作るのが好きでした。その当時から、監督みたいなことをしていたなぁ」と笑う。

ハリウッドの最新SFX技術や特撮に興味を持った夜西さん。1970年代後半になり、家庭でテレビを録画できるVHSビデオが普及すると、放映される映画を録画。コマ送りで観たり、カットのタイミングや、テンポ、テクニックなどの編集を細かく分析して楽しんでいた。「いずれ映画の特撮には、合成だけでなくCG技術が使われるだろう」と考え、コンピューターの専門学校へ進学。だが、当時の日本でハリウッド並みのSFX技術を学ぶことはできなかった。
映画監督への夢や興味は持っていたものの、「現実的に、不可能かもしれない」と思うようになり就職、サラリーマンの道を歩む。それでも、映画制作への興味は尽きず、趣味でメイキング本やVFX(視覚効果)など、最新の特撮技術の本などを読み漁っていた。

時は流れ、夜西さんが40歳半ばに差しかかった頃。「そろそろ人生の折り返し地点だな」と感じた時、ふと、小学校の卒業文集で書いた「将来の夢」という作文を思い出す。タイトルは「ジョージ・ルーカスのような映画監督になる」だった。
「このまま何もせずに人生を終わらせる訳にはいかないと感じました。もし今の私が夢を諦めたら、少年の頃の私は、どれだけ悲しむだろうと。監督になれるか、なれないか、という結果ではなく、チャレンジするか、しないか。そこに私にとって大きな価値があるのではないかと考えました」
人生半ばにして、大きな決断だった。
「私の見た目は大人ですが、映画を撮るとき心は少年の頃のままなのかな、と思っています。撮影しているだけで、すごくエキサイティングでハッピー(笑)。彼(少年の頃の私)のおかげで、人生が大きく変わり、いろんな人と出会い、いろんな体験ができている。人生が充実してきたのです」

処女作の「サファイア ー アルティメット・ファイアファイト」では、監督、製作、脚本、撮影、編集とほぼすべてを担当した。
「全くの映像経験無しで初監督。そもそも完成できるかどうかもわかりませんでした。まずはどのような映像になるかを実際に撮り、編集して確認したかったので、全てを自分でこなすしかなかった。ただ、SFXやVFXの知識はありましたので、『ある程度は撮れるかな』という妙な自信はありましたね(笑)」
第2作目の「スティール・アンジー」は、脚本家の矢野堅太郎氏に脚本を依頼、映画を作ることに専念した。これら2作品は、「常識破りのインディーズ・ガンアクション・ムービー」と評価される。ニューヨークで11月に開催されたアクション映画祭「アーバン・アクション・ショーケース・アンド・エキスポ」で上映され、「サファイア」はベストフィーチャー賞を、「スティールアンジー」は、ベスト・アクション・シークエンス賞を受賞した。
「私の映画が生み出す世界観、特色を感じて頂いているようで、大変ありがたく思っています。いずれは、恋愛モノ、社会派、コメディーなど、いろんな映画を撮りたいですが、当面はアクション映画を作っていくと思います」
「スターウォーズ」に衝撃を受けてから、映画監督になるまでの道のりを「夢の旅」と称する夜西監督。特にゴールを設定しているわけではなく、「行けるところまでがこの夢のゴール」だと考えている。
「夢とは虹のようで、近づけば遠ざかり、たどり着いてもまた新たな夢が広がる。実現させることよりも、その道中での出逢いや体験が、人生をより豊かで充実したものにするのだと、今は実感しています。人と出会い、いろんな経験ができたのは、夢を大切にしたから。映画は私の人生を変えてくれました」
次回作について尋ねると、「まだ漠然としたイメージしかありませんが、SFアクション映画になるかも。完成の暁には、ぜひニューヨークの映画祭にもエントリーしたい」
スターウォーズに魅せられた少年が作るインディーズ・ガンアクション・SFムービー。完成が待たれる。(ケーシー谷口)

夜西監督・映画作品サイト
https://westnightfilms.com



HOME