2019年12月20日号 Vol.364

ファッションは楽しむもの
いろんな考え方があっていい
今井千晶(CHIE IMAI代表) & 今井クリス(同社マーケティング・ディレクター)


今井クリスさん(左)と今井千晶さん


ラグジュアリー・ブランド「CHIE IMAI」を基盤として、「花、香、飲む香水」という発想から誕生した本格芋焼酎「モーリス」をプロデュース、「レイナ」ブランドでは、オーガニック・エキストラ・バージン・オリーブオイル「オロ・デル・デシエルト」をスペインから直輸入する今井千恵さん(CHIE IMAIリードデザイナー)。走り続ける彼女を陰で支えるのは、長女でCHIE IMAI代表の今井千晶さんと、マーケティングを担当する長男の今井クリスさんだ。(以下敬称略)
クリス「歴史に残るデザイナーズブランドとして広く認知されるように、ブランド名を『ロイヤル・チエ』から、アルファベットで表記する「CHIE IMAI」に変更しました」
時代に沿ったブランド展開が必要だと考えていた彼は、ハッシュタグ「#ChieChic」「#チエシック」を考案。
「パーソナリティーを自由に表現できる要素のひとつにファッションがあると考えています。偏った意見から生まれるネガティブな思考をやめ、個々のスタイルを自由に楽しむ…それが#ChieChicのコンセプト。CHIE IMAIが提案するスタイルは、自分自身はもちろんのこと、他人のファッションを尊重することも意味しています」
千晶「ファーはリメイクして、新しいスタイルにすることが可能です。嫌いになった、古くなったからと捨てるのではなく、メンテナンスを施し大切に長く着ていただく。何でも『使い捨て』の時代ですが、ファーは再生可能なのです」

だが現在、ファー業界は逆風に晒されている。動物愛護の観点から、有名ブランドが次々とファーを使用しない「ファー・フリー」を宣言。イギリスのエリザベス女王も「今後は、動物の毛皮を使った衣類を買わない」と発表し、話題となった。
千晶「私が疑問に感じるのは、『ファー』はダメだけれども、『レザー』はそこまで問題にされていないという点です」
クリス「『ファー・フリー』を掲げるブランドに関しては、ある種の『イメージ戦略』ではないでしょうか。エリザベス女王が『買わない』と言ったのは事実ですが、『すでに持っている儀式用のものは継続して着る』とも発表しています。もちろん、動物が無惨に殺されている写真や動画を見れば『ファーは残酷だ』と言われるのは当然で、僕も全く同感です。残念なことに、安価で大量生産を目的とした劣悪な工場が存在しているのは事実。ですが、ショッキングな映像だけがファー業界全体の事実ではありません」
今年10月、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は2023年以降、州内で毛皮製品の販売や取引などを禁止する条例(リサイクル品や宗教目的、ネイティブアメリカンなどの伝統的な使用目的を除く)にサイン。ニューヨーク市でも今年3月、毛皮販売禁止法案が提出。賛成派がアニマル・ライツを主張する一方、反対派は毛皮産業に携る中小企業や宗教・文化的伝統の保護を訴え、大論争となった。ニューヨーク市の歴史を紐解いてみると、初期の入植者はビーバーの毛皮交易を手掛けて財を成し、ニューヨーク市の公印には2匹のビーバーが描かれている。
千晶「アンチファーを唱える人に、なぜファーはダメで、レザーは良いのかと尋ねたことがあります。『ファーは生きているうちに皮を剥ぐ、でもレザーは死んでからだから問題ない』と。彼女は間違った情報を信じていました。実際は全く違います。私達が取り扱うファー製品は、自然界の動物を捕獲しているのではなく、牛や豚、鶏などと同様に、きちんとした環境で養殖されています」
クリス「あれがダメこれがダメと、即座にその対象物が無くなってしまうと、必ず困る人々が出てきます。将来的にファー産業がどうなるかは分かりませんが、今は良い・悪いと議論することが大切なのではないでしょうか」
捕鯨は文化か虐待か。「捕鯨は文化だ」と考える日本人は多いだろうが、国際的には「虐待だ」という認識が強い。
クリス「たとえ養殖だとしてもファーはダメ、牛・豚・鶏の養殖は食べるためだから良い、という人もいます。ファーは装飾品で、必ずしも必要はないと。それもひとつの意見でしょう。ビーガンの人が主催するパーティーに参加すると、肉系のものが全く無い。でも僕がパーティーをする場合は、ビーガンの人にも、そうでない人にも楽しんでもらえるよう両方を用意します。個人の選択や好みを互いが尊重する、それこそが多様性を認めることではないでしょうか」
千晶「ファーのファッションショーでは、『NO FUR!』のプラカードを掲げる人や、ファーを着て『I LOVE FUR』と訴える人がいます。論点は逸れますが、私たちは、選択肢が多く自由な社会に生きているんだなと実感します。ただ、ファーを着ている人にペンキを浴びせるような暴力行為は許せません」
クリス「物事を悲観的に捉えるのではなく、常に肯定的に考えること。ファー産業が叩かれているという現実は、私達に多くのことを考えさせる重要なファクターです。培ってきた技術や人間関係を維持しながら、次のステップ、次の時代へのアプローチとして役立てたい」
ニューヨークでは今年10月、フォアグラ提供を禁止する条例が可決。一方で、フランスでは文化的遺産の1つとして、フォアグラを保護しているそうだ。ファーを「残酷だ」と反対する人もいれば、「ファーは土に帰ることができるナチュラルな素材だ」と考える人もいる。
クリス「全ての物事を白黒で分けるのは難しく、立場が違えば考え方も異なります。何事もバランスが大切なのではないでしょうか」
千晶「私達はモノ売りではなく『感動コンシェルジェ』。お客様にはいつもそういう気持ちで接してくださいとスタッフに伝えています。『桃李もの言わざれども下自ずから蹊を成す』という諺があります。桃やスモモは言葉を発しませんが、美しい花と美味しい実の魅力にひかれた人々が集まり、道ができる。本当に求められるモノであれば自然に人がやってくる。私達は、そういう存在になりたいと思っています」
クリス「確かにファーは必需品ではないかもしれません。ですが、たとえ1人でも『CHIE IMAIの商品が欲しい』と思ってくださる方がいる限り、私達CHIE IMAIは、モノづくりを続けていきたいと思っています」

chieimai.com


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