2018年12月21日号 Vol.340
謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

2019年4月30日に天皇陛下が退位されます。天皇陛下の退位は約200年ぶりとなり明治以降では初めてのこと。新元号は改元の1ヵ月前に発表され、5月1日、皇太子徳仁親王が126代目の天皇に即位、新しい時代となります。

敗戦の日、独立の回復、東京五輪、大阪万博、札幌冬季五輪…さらには冷戦終結やバブル経済とその崩壊まで、生身の人間の目と耳で体験してきた私は、語り部としての責務を負っていると感じます。東京五輪2020まであと1年。人生で2度目となる改元と、東京五輪開幕に立ち会うべく、もう一踏ん張りしようと思います。

皆さまのご健康とご多幸をお祈り申し上げます。

内田忠男
国際ジャーナリスト / 名古屋外国語大学・大学院客員教授

日本の未来

日本の未来

日本にとって、最大のチャレンジが人口減少と高齢化にあることは疑いがない。

日本の人口が1億人を突破したのは1966年3月。東京五輪から2年足らず、世界中を刮目させた高度経済成長の庭先にいた頃である。敗戦時の日本本土の人口は8千万弱、20年余りで2千万人増えた計算だ。
この時代は、現在とは正反対で、急激な人口増が問題であった。社会福祉など、国の施策が追い付かない、間に合わない、とされていた。
その後、人口増加のペースが緩やかになり、国勢調査ベースでは2010年の1億2805万人がピークだった。内閣府の推計では、今から35年後、2050年過ぎには1億人を割り込むという。

ただ私は、総人口が減ることに危機感を抱いている訳ではない。
現在、世界で最も効率的な経済運営をしているとされるドイツは8200万人程。しかも、ドイツには移民の背景を持つ人々が人口の21%で1600万人以上、特にトルコから移って住み着いた人々の数が多い。3世や4世を入れると300万人近い数になるだろう。 「大東亜共栄圏」などと大仰に騒いだ割に、移民を受け入れた実績の乏しい日本とは比べ物にならない。

日本の問題は、人口統計の中身であり、年齢構成と国の対策・政策だ。
日本では15歳から65歳までを「生産年齢」としているが、これが2013年に8千万人を下回り、人口の62%になった。この程度で止まっていれば良いのだが、これが急速に減っている。では、国はこうした状況にどう対応してきたか?
安倍さんが総理になってから、少子高齢化が最大の問題、という言葉は毎年聞かされてきたが、これといった実績につながる政策を見たことがない。

外国の成功例を見てみよう。特殊出生率を劇的に向上させたフランスは、家族給付の水準が全体的に手厚い上に、第3子以上の子をもつ家族を優遇する制度を設けているのが特徴。かつては家族手当など経済的支援が中心だったが、1990年代以降は、保育の充実へシフトし、その後さらに出産・子育てと、就労に関して幅広い選択ができるような環境整備。つまり子育てと仕事の両立支援を強める方向で進められている。
スウェーデンでは、1980年代から、もう40年近くも経済的支援や両立支援の施策を進めてきた。多子加算を適用した児童手当制度、世界で初めて両性が受けることのできる育児休業の収入補填制度のほか、多様性と柔軟性に富んだ保育サービスを展開し、男女平等の視点から社会全体で子どもを育む支援制度を整備充実させている。
フィンランドでは、妊娠期から就学前まで切れ目のない子育て支援を、市町村が主体で実施。
一方、高い出生率を維持しているアメリカやイギリスでは、家族政策に不介入が基本。アメリカでは税制の所得控除を除けば、児童手当も出産休暇・育児休暇の制度もないし、公的保育サービスもない。しかし、カギっ子のように子供を一人で家に置くことは犯罪という法制度があるため、民間の保育サービスが発達。「ベビーシッター」という仕事の需要も多く、高校生や移民にとって格好のアルバイト先になっている。さらに重要なことは、子育て後の再雇用や子育て前後のキャリアの維持・継続が、日本とは比べ物にならないくらい容易であり、さらに、男性の家事参加が比較的高い社会環境でもある。

翻って日本。少子高齢化に限らず、安倍さんの政治というのは掛け声とスローガンばかりで具体的な中身がない、効果的な政策が決定的に欠けている。
アベノミクスは鳴り物入りで成長戦略を実施すると言ってきたが、記憶に残るような政策があったであろうか、甚だ疑問である。黒田日銀総裁による異次元の金融緩和と、幾らかの財政出動が記憶される程度で、成長戦略の名に値する政策は全く思い浮かばない。 あえて上げれば経済界に毎年のように賃上げ要請をしてきたことだが、これは実現しなければ経済界のせいにできるからであり、他人様のすることをアテにしたものは政策の名に値しない。要するに、 政府は何もしないで民間の尻を叩いただけ、なのだ。

「地方創生」もしかり。中央と地方の格差が叫ばれて久しいが、狭まるどころか、広がる一方。 奇策と言われようが、非論理的と言われようが、動かないものを動かすには常識の殻を破る斬新な施策を打ち出さねばならない。安倍さんの政策には、そうした常識外れが皆無である。「働き方改革」などと唱えていたが、個人の働き方にまで政府が口を出す必要があるのだろうか? 「働き方」は、個々の企業の文化の問題、個人の考え方、人生計画、嗜好の問題であるはずだ。それに政府が口を出し、仮にその通りになったとして、それが成長戦略になるとは到底考えられない。

また、安倍さんの外交能力を評価する人は多いが、実績を問えば特別なことをやったわけではない。訪問国や、首脳との会談頻度が多いのは事実だろう。日本のメディアは先の訪中の際に、「習近平が安倍さんに気をつかって3回も食事を共にした」「中国との関係が改善しつつある」などと喜んで書いていたが、中国側の姿勢が根本的に変わるなどあり得ない。中米関係が緊張すると日中が良くなる、という歴史を繰り返しているだけである。 安倍さんはここでも、「競争から協調の時代」などと空疎な標語を口にして悦に入っていたが、 安倍さんが何かしたから習近平の態度が変わった、などと言うことも全くないと断言できる。中米関係の悪化に中国経済の不振も加わり、日本の助けが必要になった…という中国側の一方的な事情によるもので、米中関係が元に復すれば、習近平の対日姿勢は間違いなくあの大国意識丸出しの不遜な顔に戻る筈である。

ロシアのプーチン大統領とは24回も会っている。しかし、その結果、何か動いたかと言えば、何も動いていない。北方4島が帰ってくる可能性は、安倍さんが総理になる前より、はるかに低い。ロシアとの経済協力が画期的に動いたこともない。民間企業が将来に確信が持てずに足踏みしているケースが多い。政府がそれに応えて安心できる方策を提示したこともない。それなのに、実績を問われると、「我々なりに全力を上げている」の決まり文句。

拉致問題も同様だ。被害者家族に会う度に、「全力を上げてます」というが、では何をやったのか? アメリカや韓国、中国、ロシアの大統領に協力を頼んでいるだけではないか。自ら動いて、事態打開のために行動した実績はどこにもない。こんなことで「全力を上げている」 のだとすれば、日本語を知らない人の世迷言としか言いようがない。
「アメリカとの関係は良い」とは言っても、トランプの機嫌を損ねないために全力を上げているだけであろう。トランプの側にも、G7と呼ばれる主要国首脳の間で、唯一、安倍さんだけが近場にいることで頼りにしているし、大事にしたいとも思っている。

もう一つ気になるのは、財政再建という問題。政権奪還直後は2020年には基礎的財政収支をクロにする、と言っていた。それが消費税の引き上げを二度延期しているうちに何も言わなくなってしまった…。
ことほど左様に、安倍さんの政治というのは行き当たりばったり、その場しのぎで、政策に背骨がない。

一国の総理は、ダントツに頭が良い人である必要はない。しかし、頭が悪い人も困る。安倍晋三さんという人は、失礼ながら頭が良くない。それが、このまま行くと日本の憲政史上、いちばん長く総理を務める人になる。これまでの最長は、戦後の現行憲法下では佐藤栄作の2798日、明治憲法下では桂太郎の2886日で、安倍さんはこの二人を抜いてしまう。因みに、安倍さん含め3人とも長州人というのは単なる偶然だろうか? 3人とも、抜群に政策の良かった人ではない、果断な実行力があったわけでもない、特別に人柄が良かったわけでもない、そして抜群に頭が良かった人ではない。しかし、その中でも頭の良し悪しで言えば安倍さんが一番劣るのではないか?
歴代総理の中で一番劣るとまでは言わない。現実に安倍さんより明らかに頭のよくない総理がいたことも事実だが、これだけ長い間政権を預けるに相応しい人物なのか…。本気で考えてみる時期ではなかろうか。

abe


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