2018年12月21日号 Vol.340

巨匠の壮大な仕事を体感
近代美術への扉を開くロマン派
「ドラクロワ」展

ドラクロワ
「アルジェの女たち」Women of Algiers in Their Apartment, 1834 © RMN-Grand Palais / Art Resource, NY. Photo: Franck Raux

ドラクロワ
「ミソロンギの廃墟に立つ瀕死のギリシャ」Greece on the Ruins of Missolonghi, 1826. © Musée des Beaux-Arts, ville de Bordeaux

ドラクロワ
「『ファウスト』リトグラフシリーズ 1. 空を飛ぶメフィストフェレス」Faust, plate 1: Mephistopheles Aloft, 1826/27 © Petit Palais / Roger-Viollet


メトロポリタン美術館でドラクロワの特別展が2019年1月6日(日)まで開催されている。展覧会名はそのものズバリ「ドラクロワ」。ウジェーヌ・ドラクロワ(1798〜1863)は、19世紀フランスのロマン主義(ロマン派)美術を代表する巨匠だが、米国ではなんと初めての公式回顧展となる。作品を多数収蔵するパリのルーブル美術館とのコラボで実現したものだ。

西欧美術史は、ルネサンス後、17世紀のバロックやロココ美術などを経て、18世紀中頃からは新古典主義が中心的となるが、同世紀後半それに抗する形でロマン主義が現れた。ロマン主義は、人間の感情や想像力の優位性をうたい、静的で理性や形式を重んじる新古典主義とは対立の立場をとる。荒い筆致、強烈な色彩、動的な表現を用いるロマン主義美術の登場は、後の印象派や後期印象派へと続く近代美術史へのマイルストーンとなる。ドラクロワは、その中心的な人物であった。
今回のドラクロワ展は、年代やテーマごとに区分された12の展示室から成る。大型作品から小品まで、欧州や全米各地の美術館や個人蔵から集められた150点以上の油彩作品、ドローイング、版画、手稿が並ぶ。
最初の部屋にはいると、大作「オリーブ園のキリスト」と「ミソロンギの廃墟に立つ瀕死のギリシャ」が出迎える。若きドラクロワがサロン(仏芸術アカデミー官展)に入選し本格的なアートキャリアを始動した初期の作品だ。1822年にサロンに初入選するも評価は賛否両論。その後も、出品作品は当事の常識を覆す野心的な主題、色彩、構図で、その都度大きな論議を呼び起こした。しかし、酷評を受けつつも、才能と大胆さとで自分のやりたいことを貫く20代のドラクロワにブレはなかった。
続いて、肖像画や自画像、馬や猛獣を生き生きと描いた動物画、当事のギリシャ独立戦争を題材にした作品、さらに、歴史的事件や小説から得た主題を、類いまれな想像力で描き上げた作品の数々が部屋ごとに展示されている。
昔教科書で見たドラクロワとは異なる男目線の暴力的な主題や、性的な意味で挑発的な作品群が目を奪うことになるだろう。
フランスによるアルジェリア占領後の1832年、ドラクロワは、使節団に随伴して北アフリカを旅し、その異文化に魅せられて数々の作品を残した。今回出品されている有名な「アルジェの女たち」は、その主題も描き方も、ルノワールやピカソなど、後世の画家達に影響を与えたことで知られている。
宗教画や神話に基づく作品も多数ある。しかし、いずれもお決まりの構図ではなく、画家自身の解釈によるドラマチックな表現だ。人間の情念や感性が滲み出ていて、見る者を圧倒する。出品されている「ピエタ」は、後にゴッホが模写した作品でもある。
その他、この展覧会では、リトグラフのゲーテ「ファウスト」シリーズ、晩年の油彩による風景画、海景画、静物画も圧巻で盛り沢山。これほど異なる主題を手がけ、どれもが独自性を備えていることには溜息が出るばかりである。
よくオーガナイズされ展示室ごとの変化も楽しめるため、大きな展覧会につきものの見終わって疲労困憊ということはない。ぜひ、自分の目と心でドラクロワの偉業を体験してほしい。(松田常葉)

Delacroix
■2019年1月6日(日)まで
■会場: The Metropolitan Museum of Art
 1000 Fifth Ave. ■Tel: 212-535-7710
■一般$25、65歳以上 $17、学生$12(要ID)
 12歳以下無料(要保護者同伴)
 ※NY州居住者 および NY州/NJ州/CT州の学生の入場料額は任意(要ID)
www.metmuseum.org


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