2018年12月21日号 Vol.340

ポジティブな姿勢を忘れず
今を一生懸命生きる
P・ウィルダロッター x 今井千恵

・ウィルダロッター
リーヴ氏が生前愛用した椅子の前で ピーター・ウィルダロッター氏(左)と今井千恵さん

今井千恵
2003年、今井さん(左から2人目)が 初参加したガラには、リーヴ氏(中央)の姿があった


脊椎損傷に苦しむ人々を支援する団体として1995年に設立した「クリストファー&ダナ・リーブ財団」(以下C&D財団)。2003年から同団体を支援し続けているのは、デザイナーの今井千恵さん(CHIE IMAI グループ代表)だ。15年という節目にあたり、プレジデントでCEOのピーター・ウィルダロッター氏と今井さんが、ニュージャージーのヘッドオフィスで対談した。
(以下敬称略)

今井:私がC&D財団からお招き頂いたのは2003年、まだクリストファー・リーヴ氏もご存命でした。あの時の「目から鱗」の衝撃は、忘れることができません。日本では、障がい者に対しての理解が低く、当事者の皆さんも引き籠る傾向にありますが、C&D財団が主催する「マジカルイヴニング・ガラ」(以下ガラ)では、リーヴ氏を初め、多くの方々がタキシード姿で堂々と参加され、生き生きとしていらっしゃいました。それを目の当たりにした時、「日本の社会は変わらなければならない」と強く感じたのです。

ピーター:我々のモットーは「今日のケア、明日の治療」ですが、これを一日でも早く、「昨日のケア、昨日の治療」にすることが重要だと考えています。クリストファー(以下クリス)は常に、ユーモアのセンスを大切にし、希望を持つことを掲げていた。自分の状況を悲観せずに受け入れ、治療法は必ずあると信じること。これがクリスの信念でした。

今井:私がC&D財団に関わらせて頂いてから15年。そんなポジティブな姿勢と心を、少しでも日本へ伝えたいと考えていました。例えば、車椅子で生活する人々が安心して笑顔で東京の交差点を渡れる…そんな社会を目指すためには、C&D財団のような活動は欠かせないと考えています。

ピーター:我々はこれまでに、約14 0億円を研究に、25億円を患者の生活向上のために支援してきました。これらの寄付はすべて、企業や個人、政府補助金、イベントなどによって集められています。クリスは自身が怪我をする以前から、「セレブが組織や団体に寄付をしたり、名前を貸したりする場合は、その組織がどういった活動をしているかを知るべきだ」と言い続けていたと聞いています。我々は彼の遺志を継承し、前進し続けることが目標です。

今井:ガラには毎年、大勢のセレブが参加されていますね。ホッケーの選手も大勢いらっしゃいました。

ピーター:ホッケーはクリスが大好きだったんですよ(笑)。ホッケーの有名選手が大勢参加してくれるのは、我々がクリスの遺志を継ぎ、未来へ進んでいる証です。今井:脊椎損傷は事故だけでなく、高齢者が転倒したり、脳梗塞、心臓発作、手術などの結果によっても脊椎が損傷するケースもあると聞いています。この分野に於ける今後の展望などを、お聞かせいただけますか?

ピーター:脊髄刺激療法(SCS)や、経皮的電気神経刺激(TENS)、AI人工知能(AI)テクノロジー、ロボット工学など、非常に有望な治療法が登場しました。また、ここ10年間に脊椎損傷の治療に特化したリハビリ施設が、米国内外に数多く設立されていることから、将来的にも大きな進展があると期待しています。我々は、これらの治療法や技術の進歩に向け、政府などに強く働きかけていくつもりです。クリスが怪我をするまでは、不治の怪我であると信じられていた脊椎損傷が、「治療可能である」と、世の中に知らせることが大切な仕事であると考えています。

今井:回復不可能だと考えられていた風潮を、「回復できる!」と言い切り、活動を続けたリーヴ氏は、本当の「スーパーマン」だったと感じています。何よりも患者さんに勇気と希望を与えたこと…並みの人間にはできません。

ピーター:クリスという人間の器の大きさ、心の豊かさを思う時、私は大きな感動を覚えます。人間は誰一人として「死」から逃れることはできませんが、「志」は永遠に生き続けていくのです。

今井:世界中で起きている天災や事故、事件のニュースを聞くと、それらがいつ自分の身に降り掛かってきてもおかしくない、今を一生懸命に生きることが大切な時代だと思います。同時に、脊椎損傷だけでなく、障がいを持った人たちを受け止める社会的なシステムが、日本はまだまだ弱いと感じています。日本で懸命に闘っている皆さんへメッセージを頂けますか?

ピーター:同じ状況にいるのは、「あなた」だけではなく、苦しい時に助けを求めることに躊躇する必要はありません。地球の裏側に、慈悲の心を持った同胞がいることを忘れないでほしい。我々のウェブサイトには日本語の説明もありますから必要な時にはぜひ見てください。クリスとダナは、「暗闇の後には、必ず明かりが灯る」「嵐の後には、必ず陽が昇る」とよく話していました。皆さんもその言葉を信じ、強く前進してください。

今井:私個人ができることはそれほど大きくないかもしれません。ですが、私もリーヴ氏の志を伝える一人として、これからも活動して参りたいと考えています。今日はありがとうございました。

ピーター:こちらこそありがとう。チエはもう我々の同志ですよ。

クリストファー&ダナ・リーブ財団
www.christopherreeve.org


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