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 よみタイムについて
 
 
よみタイムVol.140 2010年7月2日号掲載

Morning Fog, Birmingham, Alabama
写真家 青野 義一
SLをモデルに配した抒情詩
蒸気機関車の写真展

Red Umbrella, Port Jervis, NY

Autumn Leaf, Pampton Plains, NJ

 青野義一・写真展「蒸気機関車」(Steam Trains Today)が7月1日(木)から31日(土)まで1ヶ月間ニュージャージー州リッジウッドのパブリックライブラリーで開催されている。写真家の青野義一さん(72歳)が80年代90年代に撮りためた蒸気機関車(SL)のベストショット未公開作品約25点だ。リッジウッド市のライブラリーからの再三の要請に青野さんが応じたこの写真展、よくある鉄道マニア向けのSL写真展とはひと味もふた味も違う。どの作品もSL写真というよりはいずれも蒸気機関車をモデルに配した抒情的な風景写真というべきかも知れない。
 蒸気機関車の撮影は、季節、天候、気温など自然条件が大きく影響を及ぼすという。ベストなシーズンは空気が冷えて澄んでいる秋から冬。「蒸気機関車の命はやはりその力強い姿と吹き上げる蒸気だから、冷えた大気の中でこそ一層際立つことになる」と青野さんはいう。
 紅葉するアメリカの大自然、雪景色の大地をひた走る蒸気機関車の姿は鉄道マニアばかりでなく多くの人を魅了する。火力で高熱を帯びたボイラー・ボディに雨があたると瞬時に水分が蒸発して蒸気は煙のようにもやもやと車体を白く包み幻想的な光景を演出する。
 どの作品もまるで窯変のように、決して計算では生み出せない偶然の調和をシャッターの中に封じ込め永遠の輝きを放っている。鉄道写真としても、風景写真としても、家族で楽しめるユニークな写真展だ。
 蒸気機関車との出会いは、戦時中に疎開した山陰本線沿線の京都府・和知駅界隈にさかのぼる。「山間の駅や鉄道周辺が遊び場だったんです。初めて見る蒸気機関車に一度で虜になった」と青野さんは懐かしそうに振り返る。
 社会派カメラマンとして第一線で活躍している頃にはまったく撮れなかった蒸気機関車の撮影を80年代後半に入って再開した。
 青野さんは横浜出身、60年代、70年代と社会派カメラマンとして活躍。日本では「カミナリ族」の取材や「睡眠薬遊びや麻薬」など若者の生態を体当たり潜入ルポを通して発表、一方東京オリンピックの取材に関わるなど高度成長時代の日本の光と陰を切り取って人気を博し、63年には「アサヒカメラ年鑑」の新人作家5人に選ばれている。64年の東京オリンピック直後に渡米。ニューヨークに居を構えて公民権運動やヒッピー運動、ビートルズに代表されるロック・ミュージックなど激動の世相と常に向き合いたくさんの報道写真を「ライフ・マガジン」に発表、「ウッドストック博物館」にはその作品が永久保存されている。同時に毎日新聞社の契約カメラマンとして日本のメディアにも多数露出。さらにブラジルの「モンシェット」誌のNY支局に勤務しながら骨太の社会派カメラマンとしてアメリカの素顔を撮りつづけた。
 青野さんの写真は独学である。「16歳の頃に肺病をやりましてね。ようやく退院できたのは普通の人が大学卒業するくらいの頃でね、高校も大学も出てないから職業の選択肢は少ない、仕方がないから自由業でいこうと決心したんです」
 絵を描くことも好きだったけど、マスターするのに時間がかかりそうと、写真の道を選んだという。
 今回の写真展の圧巻は濃い朝霧の中から突如蒸気を吹き上げながら巨体を現わす蒸気機関車の正面写真(上)、初公開作品だ。「これは86年4月初めにアラバマ州のバーミングハムで撮った一枚。一寸先も見えない濃霧の中で汽車を待ってたんです。ヘッドライトだけがぼんやり確認できるほど濃かった霧が突然なんの前触れもなく急速に薄らぎ始めた。あっと言う間の出来事。それはもう奇蹟のような一瞬だった。カメラを構える私の前に、まるで厚いカーテンが左右にすーっとわかれるかのように、奥から黒い巨体が蒸気を吹き上げて姿を現したんです。撮影が、3分早くても遅くてもこの写真は撮れなかった」と青野さんは今でもこの千載一遇のシャッターチャンスの話になると興奮気味だ。
 「僕らの時代はデジタルじゃなかったでしょ、これまでの写真を整理してデータ化するのに忙殺されてます。夜遅くまで大変だけど色調整などやることは山ほどある。今も新しいソフトと格闘中ですよ」と楽しそうに笑った。
(塩田眞実記者)


青野義一写真展
「Steam Trains Today」
The Ridgewood Public Library
125 North Maple Avenue,
Ridgewood, NJ
201-670-5600
www.ridgewoodlibrary.org