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ヨガを始めるのに、早過ぎる・遅過ぎるはない |
亜芽さんが指導する定例のヨガ教室。場所がギャラリースペースであるためビジュアルアートやインスタレーションなど、その時々の展示作品によってヨガ空間の空気も一変する。これが参加者に受けている。他所ではなかなか味わえない雰囲気だからだ。囁くように流れる音楽とウッドフロアの上にぽつりぽつりと置かれたキャンドルの灯が、初心者の多い参加者たちの一日の疲れを心地好く和らげて、一気にヨガの世界に引きこんでくれる。
クラスのメニューは、後述する師匠譲りのダンス要素の強いヨガに自分なりの特徴を加えたもので、本人は「アガヨガです」と笑う。
「ヨガというのは決して無理を強いるものではないけど、あと一歩というところで、もうワンステップやれば出来るかな、というあたりにフォーカスすることですね。要するに気持ちいい、と思えれば良い」と話す。
会場のギャラリー「レゾボックス」は、常に意欲的なアーティストたちの展示やイベントが活発に行われているが、午前１１時から午後４時まで、手作りランチやスイーツ、飲み物などをサーブするカフェも同じ場所でオープンしている。このカフェを任されているのが亜芽さんで、ヨガ・インストラクターが心をこめて作る品々だけにどれもヘルシー志向が行き届き美味しいと評判だ。
「アガヨガ」はさらに意外なところにも活躍の場を広げている。毎年、５月になると開幕する恒例の「ＪＡＡ外務大臣杯軟式野球大会」。ＮＹの日系社会では恒例のスポーツイベントだが、この大会の常連野球チーム「じゃんくす」（宮崎清久監督）のマネージャーを務めるのが亜芽さんだ。昨年こそ優勝を逃したものの一昨年には２年連続優勝を果たした強豪だ。
「じゃんくす」の試合あるところ亜芽あり、なのである。しかし、強豪チーム「じゃんくす」も人の子。準決勝、決勝に勝ち進むとどうしても「勝ち」を意識して固くなるもの。
そこで大勝負を控えた直前にはチーム全員がヨガで緊張をほぐし、日頃の練習の成果を十二分に出し切ることを期するのである。もちろんリーダーは亜芽さん。「じゃんくす」の秘密兵器と評する声さえあるほどだ。
ヨガに出会うまで何度か苦い挫折を味わってきた。
姉がいるニューヨークに遊びに来て語学学校へ通いながらダイエットのつもりで始めたダンスにハマりダンサーになろうと決めた。しかし人生そう甘くない。スタートの遅さのせいか大きな壁にあたる。もがき続ける中、クラスでいつも後ろにいては先生の指導がよく見えない。少しでも吸収しなくてはと前に出ると先生に冷たく下げられた。「下手な人は後ろに」。ショックを受けた。
すぐにダンスを止めたわけではなかったが「このままではいけない」と思い始めた時、自分の中のスイーツへの憧れを思い出した。食べることが大好きだった。今度は真剣な挑戦がしたい。
日系飲食店のペイストリー部門やイタリアンレストランに「見習い」で入る。しかしそこは職人の世界、「毎日人前で怒鳴られ叱られ」の連続。「私に根性が無かったのでしょうけど」耐え切れなかった。
ストレスは頂点に達し身体に異常をきたすまでに。それでも菓子作りがあきらめ切れず、カルナリースクールへの入学を目指すが、今度はお金の壁に阻まれこれまた計画は頓挫。
そんな失意の時に出会ったのがヨガの師匠アントニア・カトランシエヴァさんだった。それまでヨガ経験がゼロというわけではなかったが惹かれたことも特になかった。
しかし、アントニア先生は違った。ダンスの先生でもありスピリチュアルな雰囲気を漂わす彼女が教えてくれた三つのこと「願うこと・信じること・受容すること」。この言葉をじっくりと噛み締めた。
「アントニアさんは、諦めかけていたビザのことから、もがき続ける私にいつも適切なアドバイスをくれる。見返りを求めない人なんですね。『なんでそこまでしてくれるの？』と訊いても『いつかあなたが他の人を助けてあげればいいじゃない』と微笑むだけ」
インストラクターとなった亜芽さんはいまでもアントニアさんを師と仰ぎクラスはかかさず受けている。
「秋にはまたアントニアさん主催のインストラクターだけを集めたセミナーがあるんです」と嬉しそうだ。
「世の中、すべてが縁だと思う。ダンスで悩んだこともお菓子作りの現場で苦しんだことも、結局、いまの私にたどり着くためのプロセスだった。ヨガクラスもカフェ自体もまだ未熟だけど今しだいに広がりを感じてます。強く願って信じていればいつか必ず結果は出る。私、いつの間に強くなったのかな」
ニューヨークにいつもより遅い春が来た。
（塩田眞実）
AGAYOGA クラス
■水曜 7:30 – 8:30pm
■会場：RESOBOX
41-26 27th street, Long Island City
■resobox.com
■連絡先：agayoganyc@gmail.com |
