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 よみタイムについて
   
よみタイムVol.76 2007年11月2日号掲載


「私の城なの」というスタジオで制作中のみどりさん
版画家 翠(みどり)・カーチスさん

8日から個展を開く
一人4役でアートに取り組む
政治学者の夫を支え


在りし日のアンディー・ウォーホールと

 マンハッタンの北端218丁目にみどりさんのスタジオはある。コロンビア大学の競技場や公園に囲まれた坂道の多い閑静な住宅地だ。ほぼ毎日、自宅からスタジオに通う。みどりさんの作品は大半が版画。スタイリーンと呼ばれる、プラスチックのシートを使いカッターナイフで切ったり、彫刻刀で彫ったり、電動ドリルで削ったり、金属粉を表面に撒くなどの「作業」であっという間に時間が経過する。
 「スタジオは私の城。日常を遮断できて制作に集中できるの」。今は母親の介護のため2か月おきに日本とニューヨークを往復をしている。
 ファインアートが好きだったが女子美大ではデザインを学んだ。グラフィックを勉強したことは後年役に立った。父親を早く亡くし、卒業後すぐに仕事に就く必要があった。広告会社に就職。当時一世を風靡したコカコーラなど時代の先端をいく企業の広告デザインを担当した。
 一見華やかな業界は中に入ると残業・徹夜が続く過酷な現実が待っていた。次第に膨らむ疑問。作品は発表されるとすぐ紙くずとなり何も残らない。消耗の日々の中で虚しさだけが残った。
    ◇
 ニューヨークでもう一度勉強しなおそうと思った。自分を見つめ直したかった。スクール・オブ・ビジュアルアート(SVA)の3年生に編入。当時はまだグラフィック・デザインのことしか頭の中になかった。デザイン会社でアルバイトしながら学校に通った。授業は目からウロコが落ちるように新鮮だった。日本ではひたすら作品をきれいに仕上げることが重要なポイントだった。が、アメリカでは「テクニックはあとからついてくる」「下手でもいいから自分を表現すること」「きれいに仕上げることばかり考えると勢いがなくなる」「絵の具が飛び散ったらそれはそれでいい。予期していないもの同士が作用しあっていいものが生まれる。それに対処できる自分を磨いておくこと」などと180度違う教えを受け「アメリカ」を実感した。
 「ちっぽけなプライドは完全に壊されちゃいました」と笑う。この時植えつけられた教えは今も生き続けている。
 SVAを卒業すると同時にコロンビア大学の政治学者・ジェラルド・カーチスさんと結婚。78年に長女、80年に次女が生まれる。数年は子育てに専念したが主婦であり母であると同時に一人の人間でありたい、と考え続けるみどりさんはアートの道捨てがたく大学院に進むことを決意。夫のジェリーさんも後押ししてくれた。コロンビアの大学院ではさらに厳しい指導が待ちうけ、それまでの自分が壊され自分を再建した。今では版画作品の刷りを担当してくれるキャシー・カラチオとの出会いが運命を変えた。
 版画家で客員教授だったキャシーから多くのことを学んだ。一番の収穫は新たなスタイリーンという素材。手間のかかる銅版や亜鉛版での版画作りから解放された。ケミカルも不要。新たな世界が広がった。現在の作品は現在もっぱらこの素材を用いている。
 大学院で勉強を始めたころ、子どもは幼稚園と小学1年生。まだまだ手のかかる時期だった。母親、主婦、アーチストの役割の間で悩むみどりさんの元に、母親が日本から来てくれた。世話になった母は今、日本で介護を必要としている。「子育ては終わったけど、今度は母の番」。日本に戻った母親の介護に2か月ごとに往復する日々が続く。子育て中の数年間のブランクはあるものの、一人の女性としての拠り所をアートに求め、少しも休まずに作品を作り続けてきた。
 「もう駄目もう限界と思った時、子どもがいるから頑張れたことが何度もある。それは私が子どもに何かをしたんじゃなく、子どもが私にしてくれたこと。母のことも同じです。母が今私に力を与えてくれているんです。私が困った時、母はニューヨークに来てくれました。今は、少しでも母の役に立てれば嬉しい」という。
 「介護」も中から学んだものは「まさか!と思うようなことも起こる。でも私の人生は全て制作と同じ。四苦八苦しながら良い作品が生まれる時の喜びと同じです」と話す。主婦、母、アーチスト、そして「介護」と4役をこなしながらアートに取り組んでいる。
 11月8日からワークス・ギャラリーで今年2回目の個展が開かれる。そして、09年春には銀座の老舗「養清堂画廊」での個展が決まった。みどりさんは久しぶりの日本での個展に張り切っている。(塩田眞実記者)

開催期間:11月8日(木)〜12月5日(水)
Works Gallery
1250 Madison Ave, NYC
(Bet. 89th & 90th Sts.)
TEL: 212-996-0300
月〜木10:00am-6:30pm
金・土10:00am-6:00pm
 日 12:00pm-5:00pm