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 よみタイムについて
 
 
よみタイムVol.110 2009年4月3日号掲載
和菓子職人 メアリーベス・ウェルチ

茶の湯に触れ、和菓子の世界に
歴史学んで、創作イメージもクリア
「米国人のために本出版したい」

 


6月の銘菓「おとし文」 Photo: Oren Eckhaus

「花菖蒲」は5月の銘菓 Photo: Oren Eckhaus

  きみしぐれ、きんつば、練り羊羹、柏餅、葛餅、桜餅などの代表的なものから、おとし文、花菖蒲、紫陽花、露草など季節ものまで、すべてが本格的な和菓子だ。趣味の域ではないプロの仕事である。色とりどりの和菓子が季節を表現し、あるいは物語や和歌の世界を内に秘めている。
 メアリーベスさんが、和菓子作りにのめり込んで30年余が過ぎる。すでに1冊の本にして出版するだけの原稿を書き上げているほどだ。これまで英語に翻訳された和菓子本もなければ、ましてアメリカ人によるこれだけの和菓子本はまったく類がない。
 アメリカ人によるアメリカ人のための和菓子の本、作り方、材料の求め方は元より和菓子の歴史についても簡潔にまとめられている。
 和菓子との出会いは70年代にまで遡る。
 ある時、義母からアーサー・ウェイリーの「源氏物語抄訳」を渡されて読んでみた。「もう、世界がガラっと変わりました」と懐かしそうに話す。日本文化への傾倒の第一歩としてこの一冊の本との出会いは人生最良だったという。
 この頃のニューヨークは、活気に満ちて、異文化の吸収、特に日本文化への関心が至る所で見られ始めていた。当時、ダウンタウンに住んでおり、毎週火曜夜はブリーカーストリート・シネマで日本映画と決め、健康志向と日本食への関心も募らせていた。
 たまたま同じストリートに「アズマ・ギャラリー」があり、頻繁に通うようになった。茶道具としての茶碗や棗(なつめ)、茶杓などについてオーナーから個人的に教えてもらう。オーナーのアズマさんから「茶碗には作者のスピリットが宿ってるんだ、器についている指紋のようにね。実際に使わずにただ飾って置くだけじゃ、そのスピリットを殺しちゃうことになるよ」と教えられた。
 この話を聞いて茶の湯の道に入った。81年のことだった。普通、美術館では展示品に触れることは出来ないが、茶道では美術品に触れ道具として扱う、という西洋にはない世界があった。物と人との距離感覚が日本の「美の型」の中にはきちっと収められていた。
    □
 当時ニューヨークには和菓子を扱う専門店はまだどこも進出しておらず、いつも茶道仲間と茶菓子のことで頭を悩ませていた。ある時、仲間たちと和菓子の本を手に入れ実際に作ってみようと行動に移したが、本はすべて日本語。「よし、レシピを読むために日本語を勉強しよう」と今度は日本語の夜間クラスに通う。もちろん和菓子作りと同時進行である。
 和菓子作りに挑戦してみると、今度は和菓子の歴史、日本の文化を学ばないと理解できないことが山ほどあることに気づく。日本語に少し自信がついてきた時、和菓子の歴史について書かれた本を読み始めた。250ページにも及ぶ本で、最初の1か月は、1ページ読み進むのに8時間かかった。全部読み終えたのは3か月後のこと。日本人の日本語の先生に見せたら「こんな難しい本は日本人でも読めませんよ」と驚かれました。「私にとって本は本、難しいのかどうかさえも分からなかった」と笑う。
 和菓子作りは「プロセスが楽しい」という。季節ごとに菓子が変わる。干菓子以外ならニューヨークで和菓子を作る上で、材料に困ることはほとんどないそうだ。
 「もっと和菓子作りの楽しさをアメリカ人に知らせたい」と切に願っている。出版になかなか漕ぎ着けない。どうも出版社側の戸惑いや事情があるようだ。料理本なのか歴史物として扱うのか、文化もので売ればいいのか、範疇がなかなか絞り込みにくいということがあるらしい。
 和菓子はまさにその3つのカテゴリーすべてにまたがっているのだろう。花鳥風月など自然の風物や、和歌や文学に由来を持つ菓銘がついていることも多く、味、色、匂いなどと共に由来を紐解くことができるのも和菓子探検の楽しみ方のひとつだ。
 「和菓子をきちんと理解するためには、その歴史を知ることが大事なんです。和菓子というのは単純なケーキとは全然違う、チョコレートやクッキーには歴史なんてないんですよ」とメアリーベスさんは強調する。
 日本の歴史を一から勉強しようと思い立ち、ジョージ・サムソンの日本の歴史書3巻を購入、さらに日本書紀まで読破した。好きなのは「古今集」という。「美術品の写真や図版を繰り返し見ているうちに、最初に読んだ源氏物語のイメージも、よりクリアにビジュアルで想像がつくようになったの」。
 日本映画鑑賞から茶道具収集、茶の湯、和菓子と続く道のりはどれも別々のものではなく、つながった一本の道だ。
  一枚一枚、薄皮をはぐように「気づき」が連鎖的に起こり、これを知るためにはこれを学ぶといった具合に、知らず知らずのうちに、気がついたら入り口から遠く離れた和の核心に到達していたという数少ないアメリカ人の一人なのかも知れない。
 週一回は必ず和菓子作りを欠かさない。出来上がった作品はお茶の仲間と茶事に使ったり、となり近所におすそ分け、喜ばれている。和菓子本の出版が終わるまで今のところ、教えるということは頭にない。
 ロングアイランド・シティーの日系の画廊「ギャラリー・ゲン」では、エキジビションのオープニングには必ずメアリーベスさんに和菓子を注文するという。数種類の季節に応じた和菓子を一度に約100個納める。「4月10日にギャラリー・ゲンの特別イベントがマンハッタンであるので、今、桜にちなんだ和菓子のアイデアをあれこれ考えているんですよ」と楽しそうに話した。
(塩田眞実記者)