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 よみタイムについて
   
よみタイムVol.62 2007年4月6日号掲載

研ぎ具合を入念にチェックするモーゼズさん
 日本刀研師(とぎし) モーゼズ・ベセッラ

鎌倉時代の輝きよみがえる
NYで日本の伝統文化受け継ぐ


 ロングアイランドの住宅地の昼下がり、静かな時間の中で「グッグッグッグッ」とくぐもったリズミカルな音が自然光に満ちた清潔な工房の中に溢れる。時折、音がやむと、モーゼズ・ベセッラさんが日本刀の研ぎあがり具合を確かめるために桶の水をかけ、文字通り真剣なまなざしで刀身に顔を寄せる。
 ガレージを改造した仕事場には、各種の砥石が数え切れないほど並び、日本手ぬぐいが整然とかけられ、壁に作りつけの刀架けには、鞘や柄を外した日本刀の抜き身が立てかけられ光芒を放っている。天井近くには神道の神棚も鎮座している。
 奥の収納庫には研ぎを待つ大小の刀が50本ほど整然と並ぶ。さらに縦に長い重厚な金庫、きっとここには国宝級、重要文化財級の日本刀が保管されているのだろう。
 刀はどれも数百年は優に経過している徳川時代以前の古刀、それ以降の新刀、江戸時代後期の新新刀などのアンティークものばかり。いずれも所有者を変え、それぞれに歴史を刻んで今日に伝わった「お宝」がひしめきあっている。
 モーゼズさんが初めて日本刀を見たのは13歳の時。習い始めた空手の先生が持っていたもので、とても少年が買える値段ではなかったが息子を深く愛する父親は、息子の真摯な興味を見てとり、無理をして購入してくれたのだった。今でも人生最初のひと振りとして大切に保管している。やがて、キューバ出身の父が管理人をしていたアパートに住む日本人父子と知り合う。剣道をするこの親子に誘われ剣禅道場(管俊真館長=当時)を訪問。初めて見る剣道に感動を覚えた。15歳だった。それ以来、剣道にのめり込み現在は剣道5段。パリで行われた世界剣道大会に米国代表チームとして参加したほどの腕前だ。当時の剣禅道場には、「NY刀剣会」(現在モーゼズさんは副会長)という刀剣の愛好団体が間借りしており、本物の刀剣を持つモーゼズ少年は剣道を学ぶかたわら、刀剣会にも出入りするようになり、本格的に刀の歴史や基礎知識の勉強を開始する。
    ◇
 剣道を始めて間もなく、道場の仲間と剣道のメッカ日本を訪れる機会が来た。東京で知り合った剣道家から刀の研ぎの手ほどきを受ける。それから5年間毎年、高校の夏休みは2か月間日本で過ごし、研ぎの初歩を学んだ。新しい世界が開き始めた。やがて、持っていた自分の刀を研ぐために東京に送った。
 その時の縁で、日本刀剣保存会の重鎮で宮内庁御用達の研ぎ師としても広く知られた、故吉川賢太郎氏を知り弟子入りを許される。
 「ガイジン」には狭き門の古風な社会だったが、NY剣禅道場に書いてもらった紹介状も効果を発揮、幸運に恵まれた。大学の授業があるので修行はその後も毎年夏の1〜2か月だけと決めて、夏休みは東京で過ごし、借りてもらったアパートから師匠の元に通い本格的な日本刀の研ぎの基本をつきっきりで学んだ。
 思った以上に難しい研ぎの技術、馴れぬ日本での生活、言葉の壁。21歳になったとはいえ、まだ少年の面影を残すモーゼズさんには、時々落ち込む日々もあったという。
 しかし知れば知るほど奥の深さを実感する日本刀の魅力は、弱い気持ちをはねのけてくれた。言葉の面では、英語に堪能な師匠の息子、吉川永一氏が助けてくれた。やがて師匠の手直しは入るものの、顧客からの大切な預かり物の研ぎも少しずつまかせられるようになる。「吉川先生は古いタイプの厳しい師匠だったけど心の優しい人」と懐かしそうなモーゼズさん。「今でも研ぎのエキスパートと自分では思っていません。今も、そしてこれからも一生勉強です」とあくまでも謙虚だ。
 モーゼズさんは、父親が大工をしていたことが影響しているのか、木工の細工がまた見事だ。自宅には木工場も別にあり、拵え(こしらえ)と呼ばれる刀の外装とは別に、刀身を保管するための白鞘(しらさや)も自分で作る。材料はほうの木だけを使用。出来ばえは驚くほどの緻密さだ。また刀身を取り除いて外装だけが美術品として展示される時に使う「つなぎ」と呼ばれる本物そっくりの薄い木製の刀身やその他の部品、特に「はばき」と呼ばれる鍔を固定する金具までもほうの木で寸分違わず作ってしまう。
 研ぎの注文はくちコミで入ることが多いという。最近、各地の美術館からの依頼も増えた。中には北欧やロシアからもモーゼズさんの名前を聞きつけて刀が送られてくる。研ぎに要する時間は、一本1週間から2週間。しかし、注文が多く、今、新規に研ぎを注文すると1年半待ちという。
 日本では伝統文化・芸能を受け継ぐ若い世代の不足が深刻化し、各分野で文化の継承が危ぶまれている。モーゼズさんは日本人に代わって「日本刀の研ぎ」という古い伝統をしっかりとニューヨークで受け継いでいる。
(塩田眞実記者)

[問い合わせ]nihontoantiques@verizon.net
www.nihontoantiques.com