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よみタイムVol.84 2008年3月7日号掲載

龍笛を奏でるルイーズさん
 龍笛奏者 ルイーズ・ササキ

スピリチュアルを感じる音楽
セントラルパークで演奏したい



正装したグループの晴れ舞台

 土曜日の昼下がり、クイーンズ区フラッシングの住宅。一歩入ると雅楽特有のゆったりとした、しかし長い息吹のような、笙(しょう)や篳篥(ひちりき)の音が耳に入る。まるでこの空間だけは、別の次元の気圧が満ちているようだ。
 あまり広くない部屋に10人ほどが車座になって、鞨鼓(かっこ)と呼ばれる打楽器に、琴、龍笛(りゅうてき)、笙(しょう)、篳篥(ひちりき)など、雅楽を演奏する代表的な楽器を奏でている。メンバーはみな普段着で熱心に練習に取り組んでいるが、儀式や演奏会では古式にのっとった衣服を着用する。
 グループの真ん中で、龍笛と呼ばれる横笛を片手に、優しい声音でグループを引っ張っているのがルイーズさんだった。通しの練習が始まるとルイーズさんも龍笛で演奏に参加する。
 時々、演奏を止めては、「そこはそうじゃなくて、こうよ」と手振りを交え、曲を口で歌いながら微妙な節回しを指導する。声はとてもよく通り、温かみがあってまろやかだ。

 雅楽は1400年の伝統を持つ宮中の音楽だ。ルイーズさんにとって、雅楽との最初の出会いはUCLAだった。大学院で専攻したプログラムはユニークな「舞踊民俗学」。この時、元宮中雅楽士としてUCLAで雅楽を教えていた東儀季信(とうぎ・すえのぶ)氏と出会う。
 専攻が舞踊民俗学だったので、はじめは舞楽から入った。「雅楽」という言葉は包括的で、広い意味があり楽器による演奏、歌、そして舞楽もこの中に入る。東儀先生について舞楽を学ぶうちに「雅楽アンサンブルに入ってやってみないか」と誘いを受けたのがきっかけだった。
 始めてみると「雅楽の深さ、神秘さに増々魅了されました」。日本にもしばしば出かけ、天理大学雅楽部とともに学ぶ機会も増えた。
 ニュージャージーで生まれ育ったルイーズさん、子どものころは、クラシックバレエやピアノを習う普通の女の子だった。「あいにく私が育った町の周辺には、アジア文化を匂わせるようなものはまったく無く、強いて言えば近くにあったチャイニーズ・レストランくらいだった」と笑う。
 やがてマサチューセッツ州にある私立のハイスクールに進学するが、そこで交換留学制度に応募して、日本に2か月滞在する機会を得た。
 京都の日本人家庭の家にホームステイして、日本を見て回った。若い感性はしなやかに異国の文化を吸収した。ある時、広島県宮島の厳島神社を訪れた時のこと。緋色の装束を着けた踊り手が水辺で舞うのを見た。
 「当時の私はそれが何か理解はできなかったけど、その印象は強く胸に焼きつきました」と振り返る。初めての舞楽体験だった。「何かこの世のものではないような、とてもスピリチュアルなものを感じました」。16歳の時に垣間見た雅楽の思い出は、後年UCLAで東儀先生から習い始めて「ようやく腑に落ちました」という。
 UCLAを卒業後、アメリカで柔道の指導をしている日本通運社員の佐々木教之さんと結婚。両親がいる東海岸へ戻った。間もなく天理教の雅楽部での指導を開始する、79年のことだった。
 「雅楽は、歌なんですね。西洋音楽は、リズムを作り、型の中でビートを刻むでしょ。でも、雅楽は呼吸そのものなんです」。
 「雅楽には指揮者はいないんですね。誰もテンポ、リズムをカウントしていません。別々の楽器を奏でながら、グループ全体がひとつの生き物のように呼吸しあい、演奏者一人ひとりが協調しあって、全体の大きなユニティ(統一性)とハーモニー(調和)が生まれるんです。その全体の呼吸が聴くものを引き付け、大きな瞑想の中に取り込んでしまうんです。そういう意味で雅楽はスピリチュアルで特別なものだと思っています」と雅楽となると流暢な日本語で話がはずむ。
 篳篥や龍笛などの楽譜は、パッと見ると記号ばかりのように見えるが、歌と同じであり、その歌の通りに、微妙な歌い回しを忠実に楽器で再現していくことが基本、という。
 演奏する者は、まずこの仮名譜と音譜を、実際に歌いながら、その曲の旋律や細かな奏法を覚える。この歌は「唱歌(しょうが)」と呼ばれている。唱歌は、典楽を習う上で基本となるものであり、その曲の旋律、リズム、ニュアンスを掴み理解するのに欠かせないものだそうだ。
 ルイーズさんの新たなミッションは、コロンビア大学の日本中世文化研究所に出来た「雅楽アンサンブル」(メンバー約20人)の指導だ。現在3月初旬のコンサートに向けて特訓中である。日本人でさえ馴染みの薄い日本の伝統音楽「雅楽」が、ルイーズさんたちの絶え間ない努力の証として、アメリカですこしずつ実を結んでいる。いつか中秋の名月を見ながらセントラルパークでのコンサートを実現したいと考えている。前よりも忙しくなったというが、雅楽に育まれたとしか思えないおだやかな笑顔にはその気配は微塵もうかがえない。(塩田眞実記者)