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世界屈指の幅広い収蔵品を誇るメトロポリタン美術館(通称MET)。威厳漂う正面玄関を入ると、世界の芸術を凝縮したような美の空間が待ち受けている。その膨大なコレクションは約300万点を超え、常設展示は約20部門に分けられている。ヨーロッパ絵画/オールドマスターズにあるフェルメールの代表作「水差しを持つ若い女」(1660年頃)や、ゴヤの「ドン・マヌエル・オーリソ・マンリケ・デ・スニガ像」(1788年)、ベラスケスの「ファン・デ・パレーハ」(1610-1670年頃)などは必見だ。19世紀ヨーロッパ絵画・彫刻にはロダンやドガの彫刻、ゴッホ、ゴーガン、マネ、モネ、ロートレックなど誰でも一度は耳にしたことがある数々の名作が並べられている。他にも「エジプト美術」や「アメリカンウィング」が人気だ。毎週金曜日と土曜日の午後5時から8時までは正面玄関の2階、バルコニー・バーでクラシック音楽の生演奏がある。

Young Woman with a Water Pitcher, ca. 1662
Johannes Vermeer (Dutch, 1632-1675)
Marquand Collection, Gift of Henry G. Marquand, 1889 (89.15.21)
The
Temple of Dendur , ca. 15 B.C.E.; Roman period
Egyptian; Nubia, Dendur
Sandstone; L. from gate to rear of temple 82 ft. (24 m 60 cm)
Given to the United States by Egypt in 1965, awarded to The Metropolitan
Museum of Art in 1967, and installed in The Sackler Wing in 1978
(68.154) |
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ニューヨークのエル・グレコ
El Greco in New York |
画家エル・グレコ(1541-1614)はギリシャのクレタ島に生まれ、イタリア各地に滞在した後、1577年から73才で亡くなるまでスペインのトレドに在居した。没後400年を記念し、メトロポリタン美術館は、所蔵10点、借入6点の絵画を揃え、特別展を開催中。小規模ながら、ヴェニス、ローマ、トレドでの各時代からの作品を集め、エル・グレコの芸術を回顧する。当時のルネサンス後期のマニエリスムとは全く異質な画風は、うねる線、深い色、非写実的なバランスが独創的であり、ピカソはその構図に潜在的なキュビズムの根拠を見出した。異邦人エル・グレコの孤高の芸術は、時代や文化の属性を感じさせない。古典と現代芸術の感覚を併せ持つ魅力が稀有である。
(2015年2月1日まで)
El Greco (Domenikos Theotokopoulos) (Greek, Iráklion (Candia) 1540/41–1614 Toledo) Cardinal Fernando Niño de Guevara (1541–1609)
Ca. 1600
Oil on canvas, 67 1/4 x 42 1/2in. (170.8 x 108cm) The Metropolitan Museum of Art, H. O. Havemeyer Collection, Bequest of Mrs. H. O. Havemeyer, 1929 |
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葬送の美:喪服の100年史
Death Becomes Her: A Century of Mourning Attire |
現在、世界基準のように思われている喪服の黒色は、例えば日本では、西洋の習慣に倣って明治以降に始まったようである。美術館コレクションから取り出された1815〜1915年のヨーロッパとアメリカの喪服約30点は、多少のグレーの他は黒一色である。イギリスのヴィクトリア女王(1819-1901)、デンマークのアレクサンドラ女王(1844-1925)を始めとする上流階級が着用した喪服の数々は、重量感のある素材と巧みな装飾が優美である。永久の別れの悲しみを表す黒の形式美は荘厳であると同時にドラマチックでもあり、ゴシック・ファンでなくとも暗黒の美に魅了される。ドレスを中心に、数点の男性用スーツ、アクセサリー、帽子、日傘、関連の絵画などを展示。(2015年2月1日まで)
Gallery View
Anna Wintour Costume Center, Lizzie and Jonathan Tisch Gallery Image: © The Metropolitan Museum of Art |
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キュビズム:レナード・A・ローダーのコレクション
Cubism: The Leonard A. Lauder Collection |
化粧品会社エスティローダーを運営するローダー家は、世界屈指の美術コレクターである。創業者の長男で現会長のレナード・ローダー(1933-)は、20世紀初頭の美術運動キュビズムの作品81点をメトロポリタン美術館に寄贈した。スペインのパプロ・ピカソ(1881-1973)34点、フアン・グリス(1887-1927)15点、フランスのジョルジュ・ブラック(1882-1963)17点、フェルナン・レジェ(1881-1955)15点の絵画、ドローイング、彫刻等から成るコレクションは宝珠のような逸品揃いである。キュビズムは、綿々と続いて来た一点透視画法を根底から覆し、多数の角度から捉えた多数のイメージを一体化した。革命的な思考回路の転換は、現在も新鮮な衝撃を発信する。(2015年2月16日まで)
Pablo Picasso
Student with a Newspaper
Paris, late 1913–early 1914
Plaster, oil, Conté crayon, and sand on canvas
28 3/4 × 23 1/2 in. / 73 × 59.7 cm
Promised Gift from the Leonard A. Lauder Cubist Collection
© 2014 Estate of Pablo Picasso / Artists Rights Society (ARS), New York |
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マダム・セザンヌ
Madame Cézanne |
フランスの画家ポール・セザンヌ(1839-1906)は、静物や風景を描いた独自の画法が後のキュビズムと抽象絵画への道標となり、近代絵画の父と呼ばれる。1869年パリで出逢った女性オルタンス・フィケとは生涯を共にし、1人息子を儲けるが、家族や友人たちから認めてもらえず、不明朗な関係を長く続けた。セザンヌは頻繁にオルタンスをモデルにして、20数年間で29点の油彩画を描いた。今回、そのうちの24点をドローイングや水彩も併せて展示し、セザンヌが繰り返し向き合った身近なテーマの意味を探る。喉元まで肌を隠す服に包まれ、髪をきっちりまとめたオルタンスの顔は常に無表情である。平凡で自己主張を感じさせない女性の存在感がキャンバスを支配する。(2015年3月15日まで)
Paul Cézanne (French, Aix-en-Provence 1839–1906 Aix-en-Provence)
Madame Cézanne (Hortense Fiquet, 1850–1922) in the Conservatory
1891
Oil on canvas, 36 1/4 x 28 3/4 in. (92.1 x 73 cm)
The Metropolitan Museum of Art, Bequest of Stephen C. Clark, 1960, 61.101.2 |
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