2018年8月10日号 Vol.331
いかに日常生活を生きるか
それを役者として積み重ねていった
「モリのいる場所」「歩いても 歩いても」
俳優：樹木希林
1961年、文学座で役者活動を始めた個性派女優、樹木希林。役者である前にひとりの人間を全うしたいという彼女は75歳になった今も止まるところを知らない。
今回、ニューヨークを訪れた理由は、出演作品「モリのいる場所」「歩いても 歩いても」の上映に伴う舞台挨拶と第12回ジャパン・カッツ カット・アバブ賞の授賞式に参加するため。癌と闘いながらも、「約束したから」と律儀に日本からはるばるやってきた。「息も絶え絶え」と言いながらも、キリッとした出で立ちで背筋を曲げない姿は、銀幕のスターである以上に、一人の人間としての生き様をあたかも自分自身に見せつけているかのようだ。
樹木希林が役を演じるということは、女優が役を演じるよりも遥かに難しいと推察する。演じる前に「人間、樹木希林」である必要があるからだ。若い時から老け役を演じたが、実際の老女よりも老女役がハマった。「私は役者をやるために生きているのではなく、人間として生きるために演じることを生業にしている」
◇
「モリのいる場所」では樹木希林が、画家・熊谷守一（通称モリ）の妻・秀子を、恥じらいやユーモアを散りばめながら、自然体で日常の1日を生きる（演じる）。
「本当なら綺麗な女優さんが出てきて、衣装を変えたりするのが、お客としては見たいんでしょうけど、今回は、そういうのが一切ないところで演じなくてはいけませんでした。ありふれた1日を描くこの作品の中で、いかに日常生活を生きるか、それを役者として積み重ねていった感じです。でも、それは役者の基本でもあります。普通の映画なら、殺人が起きたり、恋に落ちたり、何か大きな事件があったりするから、日常が少々ぼやけていても成立しますけど、今回は、その日常がなかったら成り立たないという作品。とにかく、そこだけは気をつけました」
役者である前に一人の人間と言ったものの、役者にとって喜びの瞬間があるはずだ。こんな役に挑戦したい、映画を見た人に感動を与えたい、しかし、樹木希林は「役者」に対する期待も夢もない。
「身過ぎ世過ぎで演じてきたから、結果がどうであれ、あまり感動がないんです。だから、これをやったとか、仕遂げたとかは一切ありません。つまりは、将来の展望も何もない。『どういう役をやりたいですか？』と聞かれても、本当に何にもないのよ。ただ生きていれば次に仕事が来て演じられるかなっていう感じかな。普通なら、あの役をやりたいとかって思ってもいいはずなのに、そういう風には全然思わない。思えないのよね。でも、妖怪の役ぐらいならできるかしら」
樹木希林の印象は、映画も普段も全く変わらない。演じていても演じていなくても樹木希林。彼女は、役に樹木希林を演じさせることができる類稀なる女優のひとりである。
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モリのいる場所
Mori, the Artist's Habitat
共にベテランの山﨑努と樹木希林が初共演し、伝説の画家・熊谷守一（通称モリ）夫婦を演じる。よく生き、よく描き、生きとし生けるものを愛し、30年もの間、ほとんど家の外へ出ることなく庭の生命を観察し描き続けたというモリのエピソードを元に、昭和４９年のある夏の一日のモリ（山﨑努）と妻・秀子（樹木希林）を温かく、ユーモラスに描いた作品。今日もまた、いつものように、熊谷家の茶の間はモリを撮りにくる若い写真家や看板を描いてもらおうとする温泉旅館の主人から、そして隣人の夫婦まで、老若男女問わず集ってくる。
2018年｜99分
監督：沖田修一
出演：山﨑努、樹木希林、加瀬亮、吉村界人、光石研
(Photo: Mori, The Artist's Habitat_01 © 2017 'Mori, The Artist's Habitat' Production Committee)
歩いても 歩いても
Still Walking
『誰も知らない』（2004年）『そして父になる』（2013年）などのヒット作を送り出し、そして今年、最新作『万引き家族』で２１年ぶりに日本映画として第７１回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞し話題の是枝裕和監督が描く、2008年製作のホームドラマ。15年前に亡くなった長男の命日を機に集まった横山家。子連れで再婚した妻（夏川結衣）と、その息子を連れて帰郷した次男の良多（阿部寛）、姉のちなみ（YOU)、母・とし子（樹木希林）と父・恭平（原田芳雄）。長男を失う、ということを通じて得た経験によって家族それぞれが抱く様々な感情を描いている。本作は本年のCUT ABOVE賞受賞者であり特別ゲストの樹木希林と是枝監督の初のタッグ作品でもある。
2008年｜114分
監督：是枝裕和
出演：阿部寛、夏川結衣、YOU、樹木希林、原田芳雄
(Photo: Still Walking © IFC Filmse)
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2018年8月10日号 Vol.3312018年8月10日号 Vol.331
共にベテランの山﨑努と樹木希林が初共演し、伝説の画家・熊谷守一（通称モリ）夫婦を演じる。よく生き、よく描き、生きとし生けるものを愛し、30年もの間、ほとんど家の外へ出ることなく庭の生命を観察し描き続けたというモリのエピソードを元に、昭和４９年のある夏の一日のモリ（山﨑努）と妻・秀子（樹木希林）を温かく、ユーモラスに描いた作品。今日もまた、いつものように、熊谷家の茶の間はモリを撮りにくる若い写真家や看板を描いてもらおうとする温泉旅館の主人から、そして隣人の夫婦まで、老若男女問わず集ってくる。
『誰も知らない』（2004年）『そして父になる』（2013年）などのヒット作を送り出し、そして今年、最新作『万引き家族』で２１年ぶりに日本映画として第７１回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞し話題の是枝裕和監督が描く、2008年製作のホームドラマ。15年前に亡くなった長男の命日を機に集まった横山家。子連れで再婚した妻（夏川結衣）と、その息子を連れて帰郷した次男の良多（阿部寛）、姉のちなみ（YOU)、母・とし子（樹木希林）と父・恭平（原田芳雄）。長男を失う、ということを通じて得た経験によって家族それぞれが抱く様々な感情を描いている。本作は本年のCUT ABOVE賞受賞者であり特別ゲストの樹木希林と是枝監督の初のタッグ作品でもある。