2018年8月10日号 Vol.331

漫画やアニメを実写化する際、
最も力を入れているのがビジュアル

「BLEACH」
監督:佐藤信介

久保帯人原作による漫画「BLEACH」(ブリーチ)。アニメやゲームにもなり、2016年に「週刊少年ジャンプ(集英社)での連載終了後も世界中で根強い人気を誇っている。「イメージが壊れるから」という理由で漫画やアニメの実写化に反対するファンもいる中、奥浩哉原作の漫画「GANTZ」(ガンツ)を実写化した佐藤信介監督が「BLEACH」のメガホンを握った。

saito

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佐藤:漫画やアニメを実写化する際、最も力を入れているのがビジュアルです。「僕なりの観点で」という意味で、日本映画にはまだまだ「伸び代(ノビシロ)」がある、もっとやれることがあるだろうなと感じています。日本には、漫画や想像力豊かな感性で書かれた小説が沢山ありますし、「リアルな実写化」という意味では、今以上に表現できることは多いだろうと思います。

ーーゲーム制作もされていました

佐藤:キャリア的にゲームに携わった時期が10年程あります。僕は学生映画、いわゆるインディペンデント映画から始めたのですが、「CG表現」が徐々に映画の中にも入ってきて、「今後、非常に大きなモノになるだろうな」という予感がありました。CGに向き合うという意味でも「やってみたいな」という気持ちを持っていた頃、あるゲーム会社がCGアニメーション制作の監督を探していました。僕が紹介され、プロジェクトに入ろうとしていた矢先に、その企画自体が流れてしまいました。ですが、その会社のゲームのコーディネイトをしてみないか、という話になり、脚本や絵コンテをみているうち次第に興味が湧き、自然と「人間ムービー」や「オープニングムービー」、シナリオ全体を書くなど、ゲームそのものに関わっていくようになりました。

ーー映画とゲームの違いなどは?

佐藤:ゲーム業界では非常に様々なことを学びました。当時の日本映画は、まだまだファンタジックな作品やSFなどを実写化していませんでしたが、先行して、というよりも逆にゲームの世界では「その手の作品」しかなく、その中で自由にストーリーを書き、演出しました。ゲームの話とは言っても2時間程度ありますから、普通の映画と何ら変わりありません。また、ゲームのマーケットは世界、欧米です。日本国内だけで勝負していてもダメ。例えば、プレイステーションなどのゲームは欧米を中心としたマーケットで名を馳せないといけない。最初からターゲットはそこでしたから、僕の頭も随分と鍛えられた部分があります。そういった状況の中で、「映画で学んだこと」と「ゲームで学んだこと」を、ゲーム業界で出会ったスタッフ達と一緒にやれば、実写でも絶対にうまくやれるはずだ、と考えていました。

ーー「ホッタラケの島 〜遥と魔法の鏡〜」(2009年)は日本発のフル3D-CGアニメでした

佐藤:当時としては、かなりトライアルで、早すぎたかなと思っていますが(笑)、自分的にはいろいろ勉強になりました。プロダクションIGの人たちと一緒に取り組めたこと、日本のアニメがどうやって作られているかなど、目の前で見られたことは素晴らしい体験でした。

ーーその後、「GANTZ」(2011年)を実写化されましたね

佐藤:「GANTZ」の実写化プロジェクトが立ち上がった時、僕の周囲でも「こんなもの、日本で映画化できる訳ないでしょ」と言われていました(笑)。僕が「そんなことないよ、こうしたらいいんだよ」と様々なプランを出し、スタッフを説得したこともあります。当時としては精一杯やったつもりで、自分的にも成功したな、と思っています。

ーー当時の日本映画はどういう状況だったのでしょう

佐藤:1990年代いっぱいまでは、日本映画に活気が感じられない時代だったと思います。ですが、2000年に入り、テレビ局が映画を作りはじめてから、日本映画も息を吹き返したのではないでしょうか。僕の感覚では、2010年代に入ってからはより一層、日本映画の「質感」が変わってきた。以前よりビジュアル的なモノ、とんがったモノでも、企画として果敢に挑戦するような作品が続いていたと思います。僕も「GANTZ」以降、本格的にプロジェクトが立ち上がるようになり、その流れが今日の「BLEACH」に繋がっています。

ーー漫画やアニメと異なり実写版は生身の役者。相手が人間で苦労したことは?

佐藤:感覚から言えば、相手が人間の方が楽です。例えば「誰かが死に、それに泣きむせぶ」というシーンを「手付けのアニメーション」で作り込むよりも、役者さんに説明し、アングルを組み、あーだこーだ言いながら表情を撮り、アングルを変えて撮り、それを編集するという「映画の作り方」が、僕としてはフィットします。自分のイメージを役者さんと共有する、けれど彼らにも彼らの世界観があり、そこから湧き出るモノがある。いらないモノは捨て、必要なモノを育てて・・・という作業です。アニメの場合は何週間もかけて作っていきますが、映画の場合は、現場での数分間で「奇跡のようなショット」をおさえる。確かに、CGアニメと普通の映画での演出は少し違う部分もありますが、いずれにしても最終的に辿り着こうとする場所は同じです。

ーー「BLEACH」のキャスティングについて教えてください

佐藤:福士蒼汰で「BLEACH」を作る、という企画でした。例えば「風の谷のナウシカ」を実写化しようとした時、「え?! そんなものできる訳ないじゃん」と、まずは思うでしょう。ですが「ナウシカ役を今をときめく○○さんがやったとして」と、具体的なイメージが湧いた瞬間、「あ、それ!見たいかも」と変化する。それと同じ感覚で「BLEACHの実写化」とだけ聞くと、「それはちょと無理でしょ〜いろいろイメージもあるし」と思いますが、「じゃあ、福士蒼汰が黒崎一護だったとしたらどう?」と言った時に、「黒崎一護 = 福士蒼汰。いいね、観てみたい。この企画、やってみようよ!」と。そこに素晴らしい「響き合い」を見い出せたということです。

朽木ルキアは、杉咲花さんが出演する作品で、その働きぶりや活躍、キャラクターの演じ方など、彼女のイメージがとてもよく、プロデューサーとも相談して決定しました。

朽木白哉は、最初は役者さんでいく線をあたっていました。白哉は先輩格の人物ですから若手俳優ではなく・・・となるとやはり有名な役者さんとなり、よく知られた顔になってしまう。なんとなく「異界から来た感」とでもいいますか「異次元感」みたいなものが欲しい。イメージを優先したいと考えた時、「役者でなくてもいいのでは・・・」とひらめいた。アンジェリーナ・ジョリー監督の「不屈の男 アンブロークン」で日本兵を演じていたMIYAVIに、とても霊的なものを感じ、ロサンゼルス在住の彼とやり取りをして決定しました。

殺陣(たて)のシーンも多いですし、阿散井恋次には「和」の雰囲気が欲しいと思い、早乙女太一に決まりました。今回、あえて「回想シーン」を入れず、役者のセリフだけで人間関係やその背景を表現しているのですが、異世界のことでありながら、彼が話すと信憑性が増し、説得力が出る。とても良かったと思っています。

ーー今回の「BLEACH」上映は早々にSOLD OUT、追加上映もSOLD OUTでした

佐藤:こんなに多くの根強いファンを持つ作品で、すでにあるイメージをあえてブチ壊すことはしないようにしました。だからと言って「コピー」になってはダメ。「ファンムービーとしては良いけれど、映画としてはどこか変」という作品にならないように心がけました。それが成功しているかどうか・・・今はわかりません(笑)。ただ、「BLEACH」に限らず、原作を知らない人でも「映画」として「入っていける、楽しめる」ような作品作りを目指しています。

ーー「BLEACH」続編は?

佐藤:最近の映画は「続編ありきで制作する」という傾向があります。映画自体、ドラマのようにフランチャイズ化して作っていく、という流れがあり、あえてバッドエンディングにしたり、次回作を予感させたりする作品もあります。ですが、そもそも「2時間ぐらいでパキっと終るのが映画」だと思っていますので、常に「これで完結しても良い映画」として作っています。ただ「BLEACH」は、僕ですら続きが観たいですね(笑)。

ーー最後に、監督になろうと思ったきっかけを教えてください

佐藤:僕の父は高校・大学まで、50年代のアメリカで育ちました。その影響から父はアメリカ映画が大好きで、僕は小さい頃から呼吸するように西部劇を観ていました。絵も好きだったし小説も大好きで、高校で進路を決める際、作家にも画家にもなりたかった、それを組み合わせると「映画」じゃないかって(笑)。そこから変わらず「映画監督になる」と思っていました。

ーーー冒頭で触れた通り「漫画やアニメの実写化には反対」というファンは多い。自らの想像力やイメージを壊されたくないというのが理由で、人気が高ければ高い程、実写化の「ハードル」も高くなる。一方、アメリカでは、マーベル・コミックやDCコミックスをどんどん実写化させ、世界的なヒットを飛ばしている。佐藤監督が言うように、日本には質の高い原作がまだまだ沢山ある。佐藤監督には、日本映画の「伸び代」をさらに発展させ、ゲーム業界同様、世界に誇る日本発のファンタジックな映画を撮り続けてほしい。「BLEACH」続編を待つ。


BLEACH

久保帯人原作による大人気コミック『BLEACH』の実写映画化。高校生の黒崎一護(福士蒼汰)は、幽霊が見えるが、それ以外は普通の生活を送っていた。ある日突然、一護と家族は、巨大な悪霊の虚(ホロウ)に襲われ、それを救おうとしたために重傷を負った死神、朽木ルキア(杉咲花)は、瀕死の状態になる。絶望的な状況下でルキアは、一護に死神の力を分け与える。ルキアが回復するまでの間、一護は死神代行として虚から家族や仲間を守るため立ち挑んでゆく。監督は、『GANTZ』(2011年)や『デスノート Light up the NEW world』(2016年)、『アイアムヒーロー』(2016年)など、コミック原作の実写映画化で定評のある佐藤信介監督。『GANTZ』を制作した日本最高峰のCGチームが再結集して壮大でリアルな世界をつくりあげた迫力満点のバトルアクション大作。

2018年|108分
監督:佐藤信介
出演:福士蒼汰、杉咲花、吉沢亮、早乙女太一、MIYAVI
(Photo: BLEACH © 2018 'BLEACH' Film Partners)

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