2019年7月26日号 Vol.354

目の届かないようなところへも
きちんと「視線を向ける」ことを意識したい

【WHOLE】
監督:川添ビイラル
出演:サンディー星野海、川添ウスマン(脚本も)

あらすじ:日本人とアメリカ人とのハーフ、大学生の春樹(サンディー星野海)は休学をし、生まれ故郷の日本で自分のルーツを探す旅に出ることを決意する。ある日、春樹は関西の団地に住む建築作業員のハーフの青年、誠(川添ウスマン)に出会う。春樹と誠は正反対な性格や経済的なステータスだが、日に日に友情を築いていく。第14回大阪アジアン映画祭インディー・フォーラム部門で「JAPAN CUTS賞〜スペシャル・メンション〜」受賞作。
『WHOLE』2019年・45分
監督:川添ビイラル
出演:川添ウスマン、サンディー星野海、尾崎紅


WHOLE © Bilal Kawazoe


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(左から)川添ビイラル監督、サンディー星野海、川添ウスマン (Photo by YOMITIME)


ビイラル監督:「ハーフ」という言葉は差別的なので、その代わりに「ダブル」を使おうという時期があったようですが、今はやはり「ハーフ」が主流だと思います。中には「ミックス」という人もいますね。英語で「HALF(ハーフ・半分)」は、「WHOLE(ホール・全体)」から半分が「欠けて」いる状態。この映画は、ハーフの春樹と誠が、自分たちの欠けた部分を探し求め「WHOLE」を目指そうとする旅です。

ーー本作を撮るきっかけは?

ビイラル監督:コレ、というきっかけは特にありませんでした。ただ、日本のメディアやテレビで見る「有名人のハーフ」ではなく、もっと一般的な自分たちのような「ハーフ」は、殆ど注目されていない、という気持ちを以前から持っていました。

ウスマン:脚本を書いたのは僕です。日本に住んでいると僕たち「ハーフ」は、普通の日本人ではない「違う目」で見られます。映画では、僕たちが日常的に経験した様々なことを、できるだけ「純粋に」観て欲しいと思っています。

サンディー:バイレイシャル(biracial:両親の人種がそれぞれ異なること)やハーフの人たちが「自然体」で描かれた物語が無いな、と思っていました。あるのは「ハーフ」におけるステレオタイプや、固定化による類型的なタイプキャストばかり。監督から、この映画の話を聞いた時、「これは重要な作品だな」と思いました。

ーー劇中で「お前は全然、日本人に見えないな」と言われるシーンがありました。

ウスマン:実社会で、同じようなことがほぼ毎日ありましたね。この脚本は、僕が今まで他人から言われたこと、されたことなど、それを全部書き込んで作ったんです。

ビイラル監督:映画の中で、観客へ何かを「押し付けたい」とは思ってはいません。ただ、僕らはハーフであるが故に、皆、似たような経験をしてきたのは事実です。そんな僕たち「ハーフ」の状況を、日本人の方や外国人の方にも観て欲しいなと考えました。

サンディー:僕が演じた春樹ですが、最初、彼のキャラクターにあまり共感しなかったんです。僕は、初対面の人から日本人だと思われずに「日本語うまいですね!」と言われたら、「あ~そうなんですよ〜」と、自分のストーリーを教えることに対して、それほど気にしていなかったんです。でも、春樹はそうじゃなかった。春樹を演じていくうちに、彼のセリフや気持ちに敏感になり、実は僕が気にしていなかったのは「ワザと気にしないようにしていた」部分があるかもしれないと感じました。(うん、そうだね~と、うなずくビイラルとウスマン)

ウスマン:彼が言ったことに付け足すと、僕は一時期、春樹役でもあったし、誠役でもあった。アイデンティティを探っていた頃もありましたし、「俺は日本人だ」と強がっていた時期もあった。そんな僕の内面をカット分割して、落し込んで作った作品なんです。

サンディー:面白いなと思ったのは、大阪映画祭に観にきてくれた双子の方から「すごく共感しました!電車に乗っている時に皆から見られるとか、いつも質問されるとか、同じです!」と言われた時、あ、この映画はハーフやバイレンシャルだけじゃなく、自分のアイデンティティが「WHOLE」になる、という意味の映画なんだな、と。キャラクターや状況は違うけれど、アイデンティティとの葛藤は、誰もが持っている問題なんだと思いました。

ーー映画の中で「どこの国とのハーフ?」と聞かれ、最初にメキシコ、次にイランと答えるのは?

サンディー:実は最初、そうやって聞かれることをすごく気にしている部分があって、正直言うのがイヤになって・・・。ちょっと言い方が悪いかもしれませんが、何を言っても日本人と思われないのであれば、何でもいいや!と投げやりになっていました。働いている時に「何人(なにじん)や?」と聞かれたら、日によってメキシコ、イランと変えていたのですが、どこの国を出しても「あ、わかるわ~!」と言われる。その出来事をどうしても映画にいれたかったんです。

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(左から)川添ビイラル監督、サンディー星野海、川添ウスマン (Photo by YOMITIME)

ーー英語を話すシーンが1場面だけありましたが。


ビイラル監督:春樹は、人とのコミュニケーションがすごいヘタで、母親とも良い関係が築けない、自分の気持ちをちゃんと伝えることができないんです。嫉妬心や自分の不安など、それらをうまく表現できない。しかも誠が英語を理解できないとわかっていて、ちょっと意地悪な気持ちもあり、「whatever〜」という英語を使ったんです。コミュニケーションをとれない春樹が放った究極の「シャットアウト」、拒絶です。

サンディー:春樹の「対処法」ですよね。演じていて思ったのは、春樹の人生は、ずっと自分のアイデンティティについて悩み、どう対応し、対処していいのかわからない。誠のように正面から対処する人もいれば、春樹のように、シャットアウト(拒絶)して、人とあまりかかわり合いを持たない人もいる。春樹がわざと英語を使ったのは、誠に対する「拒絶」です

ーー映画はモノレールのシーンから始まり、モノレールのシーンで終わりますね。

ビイラル監督:僕らはハーフですが、日本にいるハーフに「これが答えだよ」と何かを提示できる立場にはありません。それぞれが違う人生を生きていますし、持っている葛藤も違う。こういう風にすれば、あなたは「WHOLE」になれる、自分のアイデンティティを見つけることができる、という決まった答えを出したくなかった。「答え」はひとつではないと思っていますから。じゃあ、その「答え」らしきものを、セリフではなく「映画的」に、映像でどうみせるのか・・・と考えた時に、最後のモノレールで春樹が周囲の人を見ている・・・そこで何か「変化が生まれる」というシーンを作りたいと思いました。観て頂いて、どういう風に捉えるのかは皆さんにお任せします。

ーー最後に、この映画を通して伝えたいことを教えてください。

ウスマン:僕は一般的な、タレントではない多国籍のハーフです。僕が経験してきたことを、日本人・外国人の方に観てもらいたいです。

サンディー:とにかく一度、観て欲しいです。映画に共感できる人がいる反面、全く共感しない人もいると思います。将来、日本は多国籍になっていくと思いますので、こういう人たちもいるよ、ということを伝えたい。日本にはこんな側面があるんだよ、ということを知って欲しいです。

ビイラル監督:「ハーフ」ということに対しての葛藤はもちろんあるのですが、この作品を作っている中で、もっと大きなメッセージに気が付きました。ハーフだけではなく、日本でも様々な立場の方がいます。マイノリティーゆえの葛藤や立場、日常的に経験していること。在日の方だったり、障がいを持っている方、セクシャルマイノリティーなど、いわゆる「少数派」は皆、似たような経験をしているのではないでしょうか。多数派の皆さんが、「彼らの立場になって考える」という意識を、少しでも持ってくれたらいいな、と思います。実は、丁度、制作している時に、日本政府が外国人をもっと日本に呼ぼうとしていました。外国人が増えれば国際結婚も増え、ハーフの子も誕生するでしょう。そういう子ども達のことを理解してあげる必要があると考えています。目の届かないようなところへも、キチンと「視線を向ける」ということを意識していきたいと思っています。



Photos by Mike Nogami



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