2018年8月24日号 Vol.332

考えるのはソコソコにして
なんでもかんでもやってみる

「あみこ」
監督:山中瑶子

現在21歳の山中瑶子(やまなか・ようこ)監督。スタッフやキャストをSNSで探し、19歳で「あみこ」を撮影。デジタルネイティブで、社会のあり方を変容させるとして注目される「ミレニアル世代」から登場した若手監督だ。

saito

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山中:撮りたいなと思っていたシーンは、あみこが東京に行ってからの自由奔放な部分です。実は東京シーン、ノープランでやったんですよ。前半とラストシーンの脚本はありましたが、東京での「あみこの身勝手な行動」は、ほとんどその場のノリ、または直前に決めて、撮影しました。実は、何もかもが急に「降って」きて、それを書き留め、構成していきました。あみこが床を転がっているシーンは、彼女をみて「この子、何でもやってくれそうだな」と思い急に指示したり(笑)、PUREに関しては、結末をどう表現したらいいかわからなくて、無理矢理だったり…(笑)

ーー「変な人」に声をかけるシーンも?

山中:「変な人」役の男の子は私の友達なんです。実は録音担当だったのですが、池袋に到着してから「ちょっとやって」という感じでした(笑)。

ーー「食べる」という行為も印象的でした


山中:「ご飯を食べる」というと、みんな美味しそうに食べるイメージがありましたが、「面白くないな」と思っていました。「あみこ」にはわざと汚く食べてもらい、音も意識してグチャグチャと気持ち悪くしてみました(笑)。「食と生は結びついている」と聞きますし「食べる行為に見える人間性」にも興味がありました。

ーー山歩きのシーンで「冷めた意見」が飛び出しますね


山中:「愛はいつか冷めるし、子供は都合のいい時だけ感謝してくる、そうやってフッとした瞬間に空しい…って感じるんだろうな」と、当時はそう思っていました(笑)。今は、そういうことを考えられない程、忙しくなってしまって…。でも、そういうことを考え続け、生きていく必要がある。また、考えることは大事だけれども、考えるだけで行動しなければ意味がない。考えるのはソコソコにして、なんでもかんでもやってみるのがイイと思います、「あみこ」のように。

ーー「最強になればいい」というセリフもありました、監督にとっての最強とは?

山中:本人は努力しているけれども、飄々とやってるようにみえる人が最強。まわりからみると努力していないように見える人がかっこいい。私は全くできないんです、ルーズだし、怠惰で怠け者な人間だと思います。毎日、自分を奮い立たせないと頑張れない…(笑)。「あみこ」を完成させるために、気合いを入れないといけなくて…結構、大変でした(笑)。

ーー地下鉄で踊るシーンは?

山中:実は踊りに興味があり、生まれ変わったらダンサーになりたいと思っていました(笑)。でも、ぜんぜん踊れないんです、日本人だからかな(笑)。映画を観ていると結婚式などで、心から楽しそうに踊っています。そんな風景への憧れから、映画の中にダンスシーンを取り入れたいと思っていました。でも、私が取り入れたら、ああなってしまった(笑)。

ーー好きなシーンはありますか?

山中:山を歩いているところが好きです。意図した訳ではなく、撮影している間にどんどん周囲が暗くなっていきました。完成したものをみると、おどろおどろしい空がいい。あとは、やはり「あみこ」が東京に行ってからのシーンが好きです。大人になると、日常がだんだんルーティーン化していく。それは仕方のないことだと思いますが、それを完全に受け入れたりせず、突拍子もないことを時々してみたい。「フッ」と来たモノをサっと受け入れ、「あみこ」のように、突拍子なくいろんな場所へ行ってみたいですね。

ーー2作目のご予定は?

山中:皆さんは「2作目は?」や「これからも映画撮りたいですか?」と聞いてくださいますし、今はもちろん撮りたいと思っています。でも、急に「映画より他に楽しいことがある」と思うことが出てきたら、映画から去っていくかもしれません。実は私、何をしていても、どこにいても、なんだか辛い気持ちがあるんです。今の日本は、私が生まれた時から「暗い」イメージが渦巻いているせいなのかな、と思ったりもします。「自分を救ってあげたい。自分を救えるのは自分しかいない」と考えているのですが、その手段が「映画制作」かなと思い、今、やっているところです(笑)。

ーー監督になろうと思ったきっかけを教えてください

山中:高校の美術の先生からの影響が大きいと思っています。もともと映画は観ていたのですが、その先生から「君はこれを見るべきだ」と渡されたのが、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の「ホーリー・マウンテン」。ちょっと頭のおかしな映画なんですが(笑)、それを観てから、目がひらいた。先生に返却しに行った時、「観てどう思った?」と聞かれ、「ちょっとよくわかんなかったけど、凄かった」と感想にならないようなことを伝えると、「どこがよくわからなかった?」と追求してくれました。それに返答しているうちに「自分のわからないことを描いている映画」というものに興味を持つようになりました。それまではジブリや、ハッピーエンドもの、理解しやすい映画しかみたことがなかったのですが、そこから自分の意志で「変なもの」や、理解できなさそうな作品を観るようになり、自然と「自分でも撮ってみたい」と思うようになりました。

ーー子どもの頃は何になりたかったですか?

山中:刑務所の看守。少年院の保護観察管でもいいです(笑)。10代の時、私自身、かなりフラストレーションがたまっていたこともあり、自分で自分をコントロールできなくなってしまうという気持ちはとてもよく理解できます。誰かが、それこそ大人や友達などがストッパーをかけないと、すぐに「行っちゃう」という衝動。私は「そうならないぞ!」と思っていましたが、その気持ちは共感できるので、そんな人の傍で話を聞きたい、聞いてあげたい。自分がその人と対話することで助けることができれば・・・と、当時は思っていました。でも、今にしてみれば「助けられるかな?」と思います(笑)。私、いい大人になれるかな。

ーー21歳の山中監督の「生まれた時から日本は暗い印象が渦巻いていた」という言葉を聞いて「それは大人の責任だ、申し訳ない」と感じた。「あみこ」の親の世代である私には、正直なところ「あみこ」に共感できるところは少ない。ただ、多くの若者たちがこの映画から「勇気を貰った」とコメントしていることを、大人は認識し、理解しなければならないと思う。「私、いい大人になれるかな」と口にした山中監督、その言葉に「自分はいい大人だろか」と自問する。生活環境の違い、都会、田舎の違いはあるものの、映画「あみこ」は大人にこそ観て欲しい作品。


あみこ
Amiko


女子高生あみこ(春原愛良)は、アオミ君(大下ヒロト)に対して崇拝に近い特別な感情を抱いていた。アオミ君と魂の会話をしたと思っていた日から一年が経ったある日、彼が突然家出をしてしまったという噂を耳にする。あみこの時に斜に構え、時に自虐的な脳内一人漫才が鮮やかに炸裂する!新しい才能の発見、紹介を目的とした自主製作映画コンペティション・PFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワード2017において観客賞を受賞。山中瑤子監督にとって日本大学芸術学部映画学科を休学中の19歳の時に制作した本作が監督デビュー作。第68回ベルリン国際映画祭フォーラム部門の正式出品作品。

2017年|66分
監督:山中瑶子
出演:春原愛良、大下 ヒロト、峯尾麻衣子、長谷川愛悠
(Photo: Amiko © Yoko Yamanaka)


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