Photo by Luke Gilford |
ノルウェーの森に住む妖精…とでも言えばいいだろうか、透明感溢れるこの声を聞くと、そんな言葉が頭をよぎる。凍るような窓の外の寒さを想像しながら暖炉で燃える炎を見つめていると、忘れかけていた子供の頃の記憶がふと甦る感覚。そんな音楽を聞かせてくれるのがノルウェー生まれのスザンヌ・サンドフォーだ。
彼女の端正ながらも何かしら物悲しい面持ちは、かつてのフランスの小悪魔たちジェーン・バーキンやフランソワーズ・アルディを彷彿させるが、アンニュイというより、はるか彼方を見つめているかのような眼差しも手伝って、孤独感が前に出る。
そのアーティスト性からケイト・ブッシュを、また時折聞かせるヴィブラートや声質からスティーヴィー・ニックスやトーリ・エイモスを思い浮かべるが、彼女の音楽は誰かの模倣とは決して言えない独特のものがある。
スザンヌの唄声は孤高感がぬぐえないものだが、母国ノルウェーではこよなく愛され、2010年に発表したサード・アルバム「The Brothel(売春宿)」は、30週間にわたり国内アルバムチャートにランキング。4万枚以上、売り上げた。
このアルバムは、電子楽器から得られる無機質性(孤独感)に自己(感情)を対比させることで、彼女が持つ内省性は更に重みを増し、悲壮感すら漂う内容になっている。また、彼女の詩も独特の世界観を持っている。
収録曲の「Turkish Light」は、孤独を救うのはささやかな自然の恵みに感謝することだと示唆する。
月がいつまでも照らす/生者と死者を覆う夜のとばりを/ひざまずくのよ/大地の女神が/太陽を暗闇で覆ってしまう前に〜人間は欲の塊/ドアの外には狼がいるとわかっているのに/人は切り抜けられると信じて/でも、私はみんなが石になってしまうのを見て来た
2012年にリリースした5作目となる「The Silicone Veil」に至っても、彼女の芸術性は損なわれていない。サウンド面でもメロディーに広がりが出て、新たな世界に一歩足を踏み出した印象を受ける。
2013年になると、スザンヌはノルウェーのみならず世界的にその存在を知らしめる。 フランスの音楽家アンソニー・ゴンザレスのプロジェクトM83と共演を果たし、トム・クルーズが出演する SF映画「オブリビオン」( ジョセフ・コシンスキー監督)のテーマ曲を歌ったのだ。ノルウェーの神秘が世界に?がっていた。
そのスザンヌ・サンドフォーがニューヨークで2回公演を行う。28日はブルックリンのグラスランズ、そして、30日はマンハッタンのマーキュリー・ラウンジと比較的小さめのクラブが会場に選ばれている。
凍るような冬が来る前に、ノルウェーの森に足を踏み入れてみてはどうだろうか。音の妖精スザンヌが、世界の向こう側に連れて行ってくれるかもしれない。
(河野洋)
Susanne Sundfør
■9月28日(土)8:30pm
※前座:The MAST
■会場:Glasslands
289 Kent Avenue, Brooklyn
■www.theglasslands.com
■$10 (入場21歳以上/要ID)
■9月30日(月)9:00pm
※前座:For Every Story Untold
■会場:Mercury Lounge
217 East Houston
■www.mercuryloungenyc.com
■前売$10、当日$12 |