シンガー、映像音楽家、作曲家という肩書きを贅沢に掲げるギリシャ生まれのマグダ・ギニク=写真中央=。彼女がテーブル一杯に広げる音楽地図には国や人種の境界線はない。自由奔放にリズムとメロディーを踊らせ、脳を刺激し、笑顔をもたらす口一杯に広がるデザートのような音楽。
母は音楽教師、父は熱心な音楽ファンという家庭で育ったマグダは、子供の頃はクラシックを聴き、ピアノを習っていた。
12歳くらいになるとマイルス・デイビスなどのジャズに没頭、周りの友達が当時流行していたニルヴァーナのようなロックを聞くのを横目に、ひとり映画音楽を好んで聴いていたと言う。そして、音楽に深く傾倒していった彼女は、両親に背中を押され、米国ボストンのバークリー音楽大学に進学する。
マグダは、同大学で映像音楽、音楽制作、エンジニアの3つを勉強したが、卒業を前に分岐点に立たされる。ハリウッドで映像音楽を追求するか、ニューヨークでバンド音楽を極めるかの選択。迷いに迷ったマグダだが、欲せれば沢山のことはできるものの、同時に二つのことはできない、と言う考えのもと、ニューヨークへの道を選ぶ。そこでバークリー時代の仲間と2011年に結成したのがバンダ・マグダである。
フランス語の歌詞にマグダの甘い声と哀愁のアコーディオン。フレンチポップスにボサノヴァやアフロ・ペルーヴィアンのグルーヴなど、様々なスタイルをミックスし、時にジャジーに、時にメランコリックに、お洒落でキュートに弾けるサウンド。
バンドのメンバーは欧州、南米、日本、米国と国際的だ。マグダ自身、完成間近というセカンドアルバムで、フランス、イタリア、スペイン、ギリシャ、ポルトガルという五カ国語で歌っているが、バンダ・マグダの一つの魅力は、そうした「音楽に国境はない」的な国際性だ。
オリジナルメンバーの一人、三村未佳(ヴィブラフォン)は「語学堪能で作曲や編曲の能力が優れていて、録音などの技術的な部分までこなすマルチタレントぶりは素晴らしいです。さらに料理も上手で、音楽に対する想いはもちろんのこと、メンバーや他人に対する愛情も人一倍強い人」とマグダの魅力を語る。
バンドメンバーにも慕われ信頼も得たマグダ。バンドはどんどんタイトになっていく。少しレトロで甘酸っぱいバンダ・マグダの伝染性のある音楽も、次第に人気を集め、ライブ活動は益々重要になっていった。
しかし、時にビッグバンドのように膨れ上がるバンドメンバーたちの確保も決して楽ではない。競争の激しいニューヨークで生き抜くミュージシャンたちを、時にまともなギャラも出なかったりもするバンダ・マグダのライブで常に演奏してもらうのは大変なことだ。
そこで、マグダは各楽器演奏者リストを増やし、メンバーを入れ替え制にした。自分のスケジュールさえ合えば、ファン獲得には欠かせないコンサートを、どんどんこなしていく方法である。
例えばベーシスト。現在、バンダ・マグダにはベース候補が4人いるので、いつライブが決まっても、まず間違いなく誰か一人は確保できるわけだ。
「結成当時から音楽を作るプロセスも同じなのに、演奏する会場が確実に大きくなってきている」と言う三村のコメントが、マグダの方法論の正当性を立証している。
「今、マネージメント会社を探しているのよ。私一人でバンドを管理するのはもう限界ね。仕事が増えれば増えるほど、音楽に専念する時間が減ってしまう」と語るマグダ。今後さらにバンダ・マグダの需要は高まるだろう。
そのバンダ・マグダが6月13日(金)、地元ニューヨークのジョーズ・パブで、ゴージャスなショーを披露してくれる。
「次回のコンサートは少し特別なのよ。基本メンバーの7人に加えて、ホーンが2人、ストリングスが4人、そして、私(アコーディオン、ボーカル)の14人でステージを盛り上げるから。ステージは少し窮屈になるけど、以前は最高で20人が舞台に立ったこともあるから大丈夫」と明るく笑う。
あなたの音楽メニューに、新しいバンダ・マグダを加えてみては?
(河野洋)
Banda Magda
■6月13日(金)7:00pm
■会場: Joe's Pub
425 Lafayette St.
TEL: 212-967-7555
■$20 ■joespub.publictheater.org
●www.bandamagda.com |