ジョージア州アトランタに生まれたカーキ・キングは、両親の願いも手伝ってか、物心つく頃にはクラシック・ギターを弾いていた。ブルックリンに拠点を移してもギタリストの道は続き、23歳の頃にはプロとして自立。「ギターは、コード伴奏、メロディー演奏、パーカション的なリズム楽器にもなって、どんなアンサンブルにも対応できるし、柔軟性がある。だからギターは万能楽器として私の扉を開いてくれたのよ」
2003年には自作自演のデビューアルバム「Everybody Loves You」をリリース。その後もキングは数々のアルバムをリリースしているが、ジャンル的にも演奏スタイルからも一つのカテゴリーに収めるのは難しい。「私は90年代に育って、誰もがインターネットで何でも聞ける時代だったから、クラシック、ジャズ、ラテンと、どんなジャンルでも、むさぼるように聴いたわ」。この言葉はキングが過去のライブで英国インディーズの雄、ザ・スミスの曲をカバーすることからも裏付けられる。技巧派ギタリストからは異なる意外な一面だ。
キングの個性的なギタースタイルは、女性という性別を越えたユニヴァーサル。「一つだけでなく、異なるギター・テクニックを組み合わるの。(右手を使った)タッピング奏法、変則チューニング、レオ・コッケやジョン・フェイヒのような先駆者たちからも学んだフィンガーピッキング、(マイケル・ヘッジズに代表される)80年代のニューエイジなどね」
楽器面でもキングは積極的に新しいものに取組む。中でも、ギター弦と指板の間にブリッジを立て両指ではじく箏ギター、アイリッシュ的で天使のような響きを生み出すヴェイレット社のミニ12弦ギター「グライフォン」は彼女の創造性を膨らますユニークなものだ。他にも、ムーグ社のポール・ヴォーが開発したアコースティック・シンセサイザー「Vo-96」を搭載したギターで幻想的な音の世界も聴かせる。「ツアーで何年も試しているけど、馴染んでいる楽器(ギター)なのに、斬新なサウンドを生み出してくれて、とても気に入っているわ」
音楽性と演奏技術はシーソーのように常にバランスを取り合う。テクニックに重きを置けば歌心が薄れ、旋律に拘り過ぎればギターの可能性が冒険心を忘れる。しかし、彼女は「練習」はしない。暇が有ればギターを手に取り、つま弾き、試行錯誤し、対話する。つまりギターは練習する観念で弾くものではなく、頭と指(体)が円滑に相互作用する為の存在なのだろう。その延長線上で曲が生まれ、アルバムができる。
「これまで様々な演奏をしたけど、やっぱり自分が一番得意とするところはソロギタープレイだと思う。例えば、45分という長さのレコードをギター1本で、しかも興味深く聴かせるのは、とても難しくて、その為にはギターのありとあらゆる部分を使う必要がある」
キングとギターは一体化する。かつてのジミ・ヘンドリックスやエディ・ヴァン・ヘイレンのように、キングは現代のギター革命児と言えるだろう。
今回のショーでは、キングの最新プロジェクト「The Neck is a Bridge to the Body」のミニ・ヴァージョンが楽しめる。特筆すべきは、演奏中、ギターのボディそのものにビデオ・イメージが投影されるプロジェクション・マッピングで、本人も白のコスチュームに身を纏い、白のギターでステージに登場する。文字通りライブ音楽とギター本体と映像がコラボする画期的なアイディアだ。
「ネナ・チェリーの大ファンなの。子供の頃に良く聴いていたし、今じゃ伝説の人。同じステージに立てるなんて本当に光栄だわ。それに私と彼女の音楽はまるで違うから、そういう意味でも面白い組み合わせだと思う」とオーディエンスとしても今回のショーを楽しみにしているようだ。日本に何度も行ったことがあると言う彼女は「わたしはカーキです。よろしくおねがいします」と流暢な日本語で締めくくった。
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ネナ・チェリーは全てを支え包容する大地の王。カーキ・キングは大地に根ざし花を咲き乱す八重桜。こんな二人のステージを一度に楽しめるのは、まさにニューヨーカーの特権。2015年は年明け早々、ライブ音楽のパラダイスとなる。