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Vol.244:2014年12月20日号
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河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。
ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
「オンガク喫茶」のこぼれ話はブログ「ゼロからのレコードレーベル」

よみタイムVol.244 2014年12月20日発行号

2015年はニューヨーカーが待ち望む新春公演で幕を開ける。16年ぶりのソロ・アルバム「Blank Project」をリリースした伝説のシンガー、ネナ・チェリーと映像をギター本体に映し出すという画期的なショーに取組む革新的ギタリスト、カーキ・キングという、今ホットな二人の女性アーティストが同じステージに立つ。(河野洋)



伝説のシンガー
ネナ・チェリー
「シンプルでハードコアなショーよ」


 ネナ・チェリーは、スウェーデンのストックホルムで、アーティストの両親の間に生まれた。母は後に、オーネット・コールマンとの活動でも知られるジャズ・トランペッター、ドン・チェリーと結婚したこともあり、16歳でロンドンに移住するまで、ニューヨークとスウェーデンを往来するボヘミアン的な生活を送ったと言う。­「片や森林に囲まれたスウェーデン、片やコンクリート・ジャングルのニューヨークという両極端の世界。自然の中では何処にも属さない無みたいなものを、都会では全てのモノの一部だという繋がりを感じた」と子供の頃を振り返る。
 両親の仕事柄、まわりにはいつも小さなネナを見下ろし、可愛がってくれるミュージシャン、作家、芸術家たちがいた。
 「4歳の頃で全部は覚えていないけど、ある時、パリで、みんながお洒落して集って、私は素足で、蛇革のズボンを履いたマイルス・デイヴィスの膝の上に座っていたことがあった。もちろん彼がどんな人物かなんて知らなかったけど、ケースからトランペットを出して、私にチョコバーをくれたことだけは鮮明に覚えているわ」と笑うネナ。
 道端でアレン・ギンスバーグと話をしたこともあった。1977年になるとロングアイランドシティのロフトに住むようになるが、そこにはトーキング・ヘッズやモダン・ラヴァーズのメンバーが住んでいたと言うから、さぞかし刺激的な毎日だったに違いない。
 「私の家族の素晴らしいところは、何をするにしても、いつも一緒だったことなの。10歳の頃、日本にも行ったわ。素敵なホテルに泊まって、丁重なおもてなしで迎えてもらって最高に楽しかった」。ネナにとって、家族の絆はアートとの結びつき同様に、人間形成の重要な役割だった。
 蛙の子は蛙。音楽の道を選んだネナは、その後、デビューアルバム「Raw Like Sushi」をリリース、シングル「Buffalo Stance」は世界的にも大ヒットした。それから、早くも25年が経過する。
 「あのアルバムは、今作に比べるとずっとポップだし、幾分作られた感はあるけど、当時のエネルギーや新鮮なフィーリングは、ほとんど変わっていない。当時の音楽を今の私に期待してもらうことはできないけど、それは、同じことを繰り返すことより、体験から学び、新しいことにチャレンジする方が大切だから」
 最新作「Blank Project」では、ロンドンのエレクトロ・プログ・デュオRocketNumberNineのオーガニックな演奏にネナの語り、ラップ、叫びを織り交ぜる独特なソウルフルで生々しいボーカルが絡む。スウェーデンのポップシンガー、Robynとのデュエットも聞き所の一つだ。「スタジオに入る前に曲を書いてリハーサルもしてあったから(今作は)細かい編集作業に時間をかけるのではなく、レコーディング時のムード、エネルギー、バイブを大切にしたライブ感あるものにしたかった」。その言葉の通り、10曲が収録された本作は僅か5日間という短期間で録音とミックスがなされた。これはソロ・アルバムとしては実に16年振りとなる。
 「母を亡くした1年後くらいに曲を書き始めて、それとは別にThe Thingというグループとフリージャズとパンク的なコラボで『The Cherry Thing』というアルバムを作ったの。私の居場所を再発見した感じだったわ。初めてのバンド、Rip Rig + Panicを思い出させてくれる、長年忘れていた自由な感覚、そして、やっぱりジャズへのオマージュね。そうしたものが全て今回のアルバム作りのきっかけだった」
 パンク、ラップ、ヒップホップ、エレクトロニック・ポップ、ジャズ、様々なスタイルで音楽を表現してきたネナ・チェリーが、いよいよニューヨークのステージに初登場する。
 「おかしな話だけど、子供の頃、過ごした時間も多いし、深い繋がりもあるのに、これまでニューヨークでソロ・ライブをしたことがないのよ。NYプレミアね」
 今回のショーは「Blank Project」からの曲を中心に、RocketNumberNineとネナの3人がステージを盛り上げる。「シンプルでハードコアなショーよ」と意気込むネナ。25年前のアルバム・タイトル「Raw Like Sushi」以上に、鮮度の高いライブ・パフォーマンスが期待できそうだ。


革新的ギタリスト
カーキ・キング
「ギターの柔軟性が私の扉を開いてくれた」

 ジョージア州アトランタに生まれたカーキ・キングは、両親の願いも手伝ってか、物心つく頃にはクラシック・ギターを弾いていた。ブルックリンに拠点を移してもギタリストの道は続き、23歳の頃にはプロとして自立。「ギターは、コード伴奏、メロディー演奏、パーカション的なリズム楽器にもなって、どんなアンサンブルにも対応できるし、柔軟性がある。だからギターは万能楽器として私の扉を開いてくれたのよ」
 2003年には自作自演のデビューアルバム「Everybody Loves You」をリリース。その後もキングは数々のアルバムをリリースしているが、ジャンル的にも演奏スタイルからも一つのカテゴリーに収めるのは難しい。「私は90年代に育って、誰もがインターネットで何でも聞ける時代だったから、クラシック、ジャズ、ラテンと、どんなジャンルでも、むさぼるように聴いたわ」。この言葉はキングが過去のライブで英国インディーズの雄、ザ・スミスの曲をカバーすることからも裏付けられる。技巧派ギタリストからは異なる意外な一面だ。
 キングの個性的なギタースタイルは、女性という性別を越えたユニヴァーサル。「一つだけでなく、異なるギター・テクニックを組み合わるの。(右手を使った)タッピング奏法、変則チューニング、レオ・コッケやジョン・フェイヒのような先駆者たちからも学んだフィンガーピッキング、(マイケル・ヘッジズに代表される)80年代のニューエイジなどね」
 楽器面でもキングは積極的に新しいものに取組む。中でも、ギター弦と指板の間にブリッジを立て両指ではじく箏ギター、アイリッシュ的で天使のような響きを生み出すヴェイレット社のミニ12弦ギター「グライフォン」は彼女の創造性を膨らますユニークなものだ。他にも、ムーグ社のポール・ヴォーが開発したアコースティック・シンセサイザー「Vo-96」を搭載したギターで幻想的な音の世界も聴かせる。「ツアーで何年も試しているけど、馴染んでいる楽器(ギター)なのに、斬新なサウンドを生み出してくれて、とても気に入っているわ」
 音楽性と演奏技術はシーソーのように常にバランスを取り合う。テクニックに重きを置けば歌心が薄れ、旋律に拘り過ぎればギターの可能性が冒険心を忘れる。しかし、彼女は「練習」はしない。暇が有ればギターを手に取り、つま弾き、試行錯誤し、対話する。つまりギターは練習する観念で弾くものではなく、頭と指(体)が円滑に相互作用する為の存在なのだろう。その延長線上で曲が生まれ、アルバムができる。
 「これまで様々な演奏をしたけど、やっぱり自分が一番得意とするところはソロギタープレイだと思う。例えば、45分という長さのレコードをギター1本で、しかも興味深く聴かせるのは、とても難しくて、その為にはギターのありとあらゆる部分を使う必要がある」
 キングとギターは一体化する。かつてのジミ・ヘンドリックスやエディ・ヴァン・ヘイレンのように、キングは現代のギター革命児と言えるだろう。
 今回のショーでは、キングの最新プロジェクト「The Neck is a Bridge to the Body」のミニ・ヴァージョンが楽しめる。特筆すべきは、演奏中、ギターのボディそのものにビデオ・イメージが投影されるプロジェクション・マッピングで、本人も白のコスチュームに身を纏い、白のギターでステージに登場する。文字通りライブ音楽とギター本体と映像がコラボする画期的なアイディアだ。
 「ネナ・チェリーの大ファンなの。子供の頃に良く聴いていたし、今じゃ伝説の人。同じステージに立てるなんて本当に光栄だわ。それに私と彼女の音楽はまるで違うから、そういう意味でも面白い組み合わせだと思う」とオーディエンスとしても今回のショーを楽しみにしているようだ。日本に何度も行ったことがあると言う彼女は「わたしはカーキです。よろしくおねがいします」と流暢な日本語で締めくくった。

 ネナ・チェリーは全てを支え包容する大地の王。カーキ・キングは大地に根ざし花を咲き乱す八重桜。こんな二人のステージを一度に楽しめるのは­、まさにニューヨーカーの特権。2015年は年明け早々、ライブ音楽のパラダイスとなる。

■2015年1月9日(金)開場5:00pm 開演7:00pm
■会場:HIGHLINE BALLROOM
 431 W. 16th St.
 Tel: 212-414-5994
■前売$35 当日$40
highlineballroom.com
●関連サイト
・Neneh Cherry nenehcherry.com
・Kaki King www.kakiking.com