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Vol.248:2015年2月27日号
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河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。
ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
「オンガク喫茶」のこぼれ話はブログ「ゼロからのレコードレーベル」

よみタイムVol.248 2015年2月27日発行号

素材に「今」を取り入れて
観客と作る等身大のジャズ
ジャズ・ピアニスト 山中 千尋



 ジャズは呼吸だ。ライブは命。ジャズメンたちは自分たちが置かれた環境とその状況の中で、会場の空気を瞬時に肌で感じ即興演奏する。メンバー同士の音のキャッチボール、観客の動作ひとつさえ演奏にスパイスを加える。

 ジャズ・ピアニスト山中千尋にとって、ニューヨークは揺りかごのようなところだ。故郷日本を離れ、ボストンのバークリー音楽大学を主席で卒業後、今もなおブルックリンを拠点に絶え間ない活動を続けている。
 山中にとって、オーディエンスに想像し得なかった世界を見せることは喜びだ。異種ジャンルのJ・S・バッハやビートルズ、果ては日本民謡であろうとも、新風を吹きかけ、ジャズの醍醐味を楽しませてくれる。
 「お客さんをハッピーにするのが好きなのです。楽しいことはみんなでシェアしたい」と、ライブで見せる真剣な表情とは違う優しい微笑みをこぼす。
 山中は最初からジャズにのめり込んだわけではない。入門書はクラシックだった。いずれ現代音楽に魅了されるようになり、光が差し込んでくるかのような新しい発見の連続に、音楽への好奇心がさらに掻き立てられた。
 そんなある時、ピアノ協奏曲におけるカデンツァを弾くように先生に言われた山中は、即興演奏ができない自分に出くわした。
 「作曲家や先生の指導がないと自分一人で思うように演奏すらできないことに本当に不自由さを感じました。そして、その答えはジャズにあるのではないかと思ったのです」とジャズとの出逢いを語る。
 考えてみれば、モーツァルトやバッハのようなクラシックの作曲家も、実は即興演奏をしていた訳で、それを記録する為に楽譜に残していただけのことだ。つまりクラシックの出発点はジャズだったのかもしれない。
 ピアニストとしてだけではなく、作曲家、アレンジャー、そして、プロデューサーとしても手腕を振るう山中は、2001年に発表したデビュー・アルバム「Living Without Friday」以来、ゲスト参加も含め、コンスタントにアルバムをリリースしており、その数は際限がない。
 「即興演奏ですし、ジャズ・ミュージシャンは毎日でもアルバムができます。私は期限がある中で作り込む方ですが、スタートも遅かったし、CDという媒体がいつなくなるか判らないと言う恐れもあるので、機会を頂ければ、それを大切に出来る限り作らせて頂いています」とシビアな目を持ちながら、どん欲に創作活動に取組む。
彼女の輝かしい功績を駆け足で追ってみると、2009年に故オスカー・ピーターソンに捧げた「アフターアワーズ」で日本ゴールドディスク大賞(ジャズ部門)を受賞。2011年には米デッカ・レーベルから「フォーエヴァー・ビギンズ」をワールドワイド・リリース。2014年にはクラシックの数々の名曲をジャズアレンジした「モルト・カンタービレ」で、ジャズジャパンアワードを受賞。同年ジャズレーベルの名門であるブルーノートに移籍し「サムシン・ブルー」と「マイ・フェイヴァリット・ブルーノート」を発表。世界中の舞台でライブ活動を展開している。
 「ジャズにも色々な種類があって、時代によって形を変えてきました。私がしていることは、素材(原曲)に今、自分が感じていることを付けくわえることです。みんなが良く知っている既存の音楽に自分のオリジナリティを加えてリスナーが知らなかった景色を見せてあげたい。ジャズの醍醐味だと思います」
 山中にとって「今」を取り入れることはとても大切なこと。そんな意味でも玉石混淆のバンドやアーティストが偏在するブルックリンでライブをよく見ると言う。「自分が演奏すること以上に人の演奏を聞くのが好きですね」。今を知ることが変化への力なのだ。彼女の情熱は冷めることなく、ジャズと共に発展している。

 その山中千尋がアンサンブルの中でも一番好きだというピアノトリオでニューヨーク公演を行う。今回は東日本大震災から4周年の時期に開催することもあり、福島県出身の彼女にとって特別なコンサートになると言う。
 「震災を通して私たちは世界中の人から、本当にたくさんのサポートを頂いています。一人の福島県人として、そんな皆さんに感謝の気持ちを伝えられたら」と心から復興を願う山中は、震災の時に作った曲を含め、ジャズ・スタンダードから八木節まで幅広い音楽を披露する。
 今でも時間さえ許せばレストランやバーでも演奏するという等身大の山中千尋。観客とミュージシャンが作り出す、今を息づく本物のジャズをたっぷりと聞かせてくれるだろう。
(河野洋)

山中千尋ピアノトリオ
メンバー:山中千尋(ピアノ)、中村恭士 (ベース)、クッシュ・アバデイ(ドラム)
■3月9日(月)7:30pm、9:30pm(2セット)
■会場:Dizzy's Club Coca-Cola Jazz at Lincorn Center
 10 Columbus Circle, 5th Fl.(Broadway & 60th St.)
■一般$25、学生$15
■予約:212-258-9595
www.jazz.org/dizzys