18世紀、イタリアの作曲家アントニオ・ヴィヴァルディはヴァイオリン協奏曲「四季」で4つの季節を音楽で表現した。ニューヨークを拠点に17年間活動を続けるETHEL(エセル)は演奏で音楽の春夏秋冬を表現し、クラシック音楽の限界を押し広げることができる強力な現代カルテットだ。
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時は1998年、ETHELはフィラデルフィアでドロシー・ ローソン(チェロ)が、オリジナル・メンバーの2人と、ジョン・キング作曲のバレエ音楽を演奏したことがきっかけとなり、後にラルフ・ファリス(ヴィオラ)が加わり結成された。
彼らの一つの魅力はクラシック音楽に留まらず、未来に向かって羽を伸ばすかのような境界線のない幅広い音楽性。そして、ジャンルを越えてコラボレーションできる柔軟性である。これは彼らの活動の鍵とも言えるだろう。
ロックのトッド・ラングレンやデヴィッド・バーン、ジャズのカート・エリング、ブルーグラスのディーン・オズボーン、コーラス音楽のジ・オーストラリアン・ヴォイシーズ、ネイティブ・アメリカンのロバート・ミラバルなど、共演者たちの名前を挙げるときりがない。
「4」に拘るETHELは、ウェブサイトの構築から徹底している。彼らのウェブページを訪れると、赤いハートマークとグループ名が中心を占め『共同作業・接続・共有・体験』に4分割したレイアウトにデザインされている。
『共同作業』は更に「ザ・カルテット」「ミュージシャン」「舞台と映像」「作曲家」と4つのサブ・メニューに分かれ、『接続』は「ブログ」「ソーシャル・メディア」「コンタクト」「プレス」に4等分されていく。
つまりETHELは心臓部で4人のミュージシャンがつながり、常に個々が四方へ引っ張り合いバランスを取る。ライブにおける4人の集中力と緊迫感はオーディエンスを激しく揺さぶる。
そのメンバーの一人が2012年にETHELに加入したミネソタ州出身のキップ・ジョーンズ(ヴァイオリン)だ。彼は大学の卒業時期に9ヶ月に渡って、地下鉄などでバスキングをしながらバイクで全米を旅行したという非常にユニークな体験の持ち主である。
「ボストンでは地下鉄のプラットフォームで毎日演奏したよ。電車が来る間隔が8分くらいなのだけど、最初は崇高なバッハから始めて、徐々に軽快なフィドルに移っていく。人が少しずつ集ってくるから、そこから更に派手な演奏を織り交ぜながらフィナーレに繋げる。そうすると電車がやってきて乗る前に1ドルくらいのチップをくれるのさ。それを何度も繰り返した」と昔を振り返る。
地下鉄の駅という騒々しい環境の中で演奏を続けたキップだが、それでも学ぶことが沢山あったと言う。
「大切なことは、数分とは言え貴重な時間を、僕の演奏の為に割いてくれるオーディエンス、そして彼らの知性に対して最大の敬意を払うことだった。貴方の8分を頂戴する代わりに、最高の8分をプレゼントします、という気持ちだね」
こうした活動を続けたキップはパフォーマーとしてもぐんぐん才能を延ばして行き、現在のETHELとしてのプロの活動に至るわけだが、普段は安部公房、遠藤周作、夏目漱石と言った日本の作家を読みあさり、音楽アーティストではシシド・カフカを楽しむと言うかなりの日本びいきのイージーライダーである。
そんな彼が他のメンバーを紹介してくれた。
「ラルフはピカソやブラックのようなキュビズムのようなアーティストだね。いつも立体的に様々な角度からものごとを見ていて複雑。ドロシーはトーマス・ハート・ベントンの絵画やアール・デコのように、力強くはっきりとしていて指示的。新メンバーのコリン・リー(ヴァイオリン)は未だ25歳で、これから形を作る、賢くて物覚えの早い将来の有望株」
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4人が形作るETHELの音楽世界。音楽の形態はクラシックだが、音楽のエネルギーはどちらかと言えばポップ。そんなETHELが来る3月21日にマンハッタンのマーキン・ホールで、結成のきっかけともなったジョン・キングと女性ギタリストのカーキ・キングと共に「Ecstatic Music Festival」に出演する。
また、3月、4月はメトロポリタン美術館のバルコニー・バーでもETHELのパフォーマンスを楽しむことができる。
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季節はめぐり音楽は心を洗う。4人の演奏が一つになる時、ETHELの音の玉手箱は静かに開かれるだろう。
(河野洋)
Ecstatic Music Festival: ETHEL,
KAKI KING & JOHN KING
■3月21日(土)7:30pm
■会場:Merkin Concert Hall
129 W. 67th St.
Tel: 212-501-3330
■$25
■www.kaufmanmusiccenter.org
ETHEL + Friends
■3月13日(金)・14日(土)
4月3日(金)・4日(土)
10日(金)・11日(土)
5:00pm〜8:00pm
■会場:Met Museum Balcony Bar
@Met Museum
1000 Fifth Ave., 2nd Fl.
Tel: 212-535-7710
■観覧無料(要美術館入館料)
■www.metmuseum.org |