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よみタイムVol.124 2009年11月6日発行号

 [其の36]

ギャラリー128の女王・宮本和子

ギャラリー128の女王・宮本和子
しなやかな感性で伝統とモダン融合
見捨てられた町をアートで活性化

 宮本和子個展「失われた時を求めて」をギャラリー128で開催するという通知をもらって、やっと和子さんは、自分のショウをすることになったのだと、私は思った。
 グループ展以外に、1986年に彼女が造ったこのスペースで、自分の個展をしたのは5年前に1回だけ。このプルーストのようなタイトルは、そのためなのか。
 手作りのぬくもりを残した織物、ほのかな光と陰で構成した糸の立体作品、質感の美を見せる着物、しなやかな感性で日本の伝統とモダンとをマッチさせた和子の作品。画商だった父親の影響で、子どものころ、日本画、書道、日本舞踊などを習った。舞踏を思わせるようなパフォーマンスをしたり、着物にこだわったりの作品のルーツは父親にあると、和子さんも言う。
 次々に、知人が訪れてにぎわっている。
 「ギャラリーを開いたら、たえずアーティストたちが出入りするのでとても楽しい。ほんとに幸せ。ビジネスにしようとなど思ってもいないし」
 東京の下町で碁会所を開いていた母親は、人が大勢集まるのが好きだった、その気質を受け継いでいるのだという。  
 チャイナタウンとイーストビレッジに挟まれたローアーイーストサイドは、60年代くらいまではユダヤ人移民の住む商業地区で、日曜日には、衣類や細々とした生活用品の店、肉料理のレストラン等が、押し掛ける買い物客を相手に商売していた。その後時代ともに廃れ、80年代になると、このあたりは見捨てられたように荒れていった。
 そのころ、この見捨てられたような地域にあるリビングストンストリートに、市に買い取られた空きビルのテナントを探しているということを和子さんは聞いた。行ってみると、昔から住んでいる人たちの細々とした商売や暮らしの気配はあったが、盛り場とはほど遠く、ドラッグディーラーが暗躍しそうな雰囲気で、かなり近付きにくい。しかし、アーティストには制作や発表のスペースが必要だ。
 730SQのストアフロントで家賃が125ドル。これなら払える。和子さんは借りることにした。以前、写真屋だったとも魚屋だったともいわれるこの荒れはてたスペースを、友人3人に助けられて修復したが、予想以上に大仕事で、ギャラリーを開いたのは翌年の86年だった。
 大きな犬2匹と3歳の息子のいるシングルマザーだった和子さんは、自分の制作、生活のための仕事を続けながら、このギャラリーの仕事に熱中した。スペースの名前は「ギャラリー128」。128は、ストリートナンバーだ。ショウのオープニングの招待状を送ると、招待客はこわごわこのスペースまでやってき
て、くつろぐのだった。
 ファッションのFITをやめてアートステューデントリーグで4年間アートを学びながらウエイトレスなどをして生きていた69年、ダウンタウンの同じビルに住んでいたソル・ウイットと出会い、彼のアシスタントになり、以来、3年前にソルが亡くなるまで彼の仕事を手伝った。ソルは、このギャラリーを応援し、力になってくれたという。
 「私はね、大変なことにチャレンジするのが好きなのよ。かえって元気になる。続ければ必ず結果が出るはずだとと信じているの」
 「子どもは学校から帰るといつもギャラリーに来て宿題をしたりしながら自然にアートの空気を吸って育ち、今は独立して、ロンドンで音楽に打ち込んでいるし、犬を飼ったおかげで身体がすごく丈夫になったし」
 あれほど荒れて人の寄り付かなかったローアーイーストサイドが、90年代になって急にホットになった。リビントンストリートにも洒落たレストランやコーヒーショップ、ライブハウス、商店、アートギャラリーさえもできて、今は深夜までインテリや若者たちの集う典型的なダウンタウンになっている。
 「ゴーストタウンだったここに私がアートギャラリーを作ったので、それなりの人たちがここに足を向けるようになった。このギャラリーはこの辺の変化のきっかけになったと、私は自負しているの。私と友人たちのやってきたことの結果だ
とね」
 ギャラリー128でショウをしたアーティストの数は23年間で1000人を超えるだろう。地域が活性化したためにスペースのレントは最初の20倍近くに上がっているが、和子さんはくじけない。アーティストのサロンの女主人として、自身アーティストとしての人はますます充実している。