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よみタイムVol.56 1月12日発行号

 [其の5]


演出家・飯塚励生(レオ)
「秦の始皇帝」に関わって
タン・ドゥンの舞台監督務める

 41歳の演出家、飯塚励生(レオ)は、ひさしぶりに訪れた生まれ故郷、ニューヨークの街を、懐かしさに心をしめつけられながら歩いた。ベトナム戦争のもたらした若者たちの反体制的な空気が満ちていた子供の頃の街の空気。ビートルズやストーンズに心を奪われ、ヒット中のミュージカル「ヘア」に感動していた時期を今でも忘れられない。
 レオがニューヨークを訪れたのは、メトロポリタンオペラで、昨年12月22日に初演されたタン・ドゥン(譚盾)作曲のオペラ「First Emperor」(ファースト・エンペラー秦の始皇帝)の演出助手を頼まれたためだ。初めて仕事をするMETオペラは、レオの生家のすぐ前にある。リンカンセンターは子供のころの遊び場だった。生家には今も両親が住んでいる。
 中国初の統一者、秦の始皇帝を描いたこのオペラは、中国の前衛作曲家タン・ドゥンが10年以上かかって作曲し、今シーズンのMETオペラでやっと世界初演が実現した。皇帝役はプラシド・ドミンゴ。現代中国の代表的な映画監督チャン・イモ(張芸謀)の初めてのオペラ演出。
 紙、水、石、花瓶など、さまざまなオブジェを使って音を創るドゥンの音楽は、それだけでも演劇的。このオペラでは歌手やオーケストラの他に、昔の楽器、鉦、北京オペラの役者、ダンサー、ライブ・ビデオのインスタレーションなどを駆使した大がかりさ。
 中国の歴史劇をオペラにした二人の中国人アーティストの、実験的で大胆な手法を成功させるために、ドゥンは日本で何度も一緒にオペラの仕事をしたレオに、どうしても手伝ってもらいたかった。自分の仕事を後回しにしてここに来たのは、望郷の心もあった。
 ドゥンとレオの出会いは96年の札幌パシフィック・フェスティバルで、レオが舞台監督を務めた時。日本版タングルウッドのようなもので、ドゥンは専属作曲家だった。以来彼のオペラ「TEA」の初演を始め、日本でのドゥンのコンサートの舞台監督はいつもレオが務めてきた。
 指揮者の小沢征爾氏とも、92年以来毎年、サイトウ・キネン・フェステイバルやヘネシー・オペラ・シリーズの演出助手をしてきた。97年のタングルウッド音楽祭での「ティレジアスの乳房」以後は、舞台監督として。   
 「オペラのように総勢300人以上を整然と動かすには、なによりもコミュニケーション能力が必要ですね。日本の演奏会などには外国のアーティストがたくさん入りますから、語学は役に立ちます。小沢征爾さんも日英語が入り混じりますから、僕とはすごくコミュニケーションがいいんですよ」。
 各国の一流芸術家が押し寄せる日本では、レオのように日英語が母国語なみにできる人は貴重な存在で、レオは演出家志望だったが、始めは通訳としてこの世界に入った。しかし語学力だけで、これほど一流の芸術家たちの信頼を得ることができるのだろうか。
 レオは、ニューヨーク大学で教育演劇学を学び、ニューヨークで俳優として出発した。同時に、日本文化の紹介のために、日本の民話「桃太郎」の英語版のオリジナル脚本を書いて、学生グループで市内の小学校を巡演していた。英会話の学校の教師をしていた時には、教材としてドラマを使うプログラムを作った。
 なにをするにもコミュニケーションを、最重要課題としてきた。演出とは、なにかを伝えるテクニックだと考えている。
 「オペラのために語学は必要ですから、今、イタリア語、ドイツ語の勉強もしています。でも、これは日本だけの語学事情かもしれない。ニューヨークでなら、こんなことがチャンスにはならないでしょう」。
 01年、原嘉寿子作曲「乙和の椿」で、演出家としてデビュー。それ以来、「ラ・ボエーム」「カルメン」「フィガロの結婚」など、主要なオペラを次々に演出。「曾根崎心中」(入野嘉朗作曲)はロシアのサンプトペテルブルグや韓国でも上演された。
 05年サントリーホールで上演した「ラ・ボエーム」を演出した時に、この19世紀前半のボヘミアンのロマンチックな恋物語を、ヒッピーの恋物語に変えたのも、この頃の記憶が強烈だからだろう。時代は60年代のニューヨーク。衣装はジョン・レノンなどをまね、クリスマスイブのシーンはベトナム反戦デモに替え、反戦プラカードも登場させた。この演出は「生と死の見事なコントラスト」と絶賛された。
 「表情とか心理をまもり、原作の人間のドラマが成立すれば、時代は自由に設定してもいいと思っています。その自由がなければ、本当の演出はできません」。
 譚盾(タン・ドゥン)は、現代中国を代表する作曲家。主に映画音楽を作曲し、グラミー賞やアカデミー賞を受賞している。オペラとしてメトロポリタン劇場では初めての作曲となる。