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よみタイムVol.144 2010年10月15日発行
号掲載

フビライハンの世界
元朝における中国美術展



「フビライハン肖像画」Khubilai Khan as the First Yuan Emperor, Shizu Ink and color on silk (59.1 x 47.6 cm) National Palace Museum, Taipei所蔵

メトロポリタン美術館が総力をかけた「フビライハンの世界・中国美術展」が9月28日から始まり連日賑わっている。展示されている美術品は、中国はもとより台湾、日本、ヨーロッパ、ロシア、カナダ、アメリカ国内などから200余点が一堂に集められ、東西の文化が融合・共生した元朝時代特有の自由な暮らしを余すところなく語りつくしてくれる。元王朝時代に中国を訪れたイタリア人のマルコ・ポーロは訪れた杭州を「世界一繁栄し、世界一豊かな都市」と評した。展覧会の時代背景は、13世紀から14世紀、ジンギスハンの孫でモンゴル帝国第5代皇帝・元朝の世祖フビライが生まれた1215年から元王朝が滅びる1368年まで。円熟した文化が花開いた約150年間に生まれた美術品が対象となっている。4千年の歴史を誇る中国-知っているようで知らない元時代の文化、歴史、人々の暮らしが手に取るようにわかる絶好のチャンスだ。(塩田眞実)


「高貴な馬」Noble Horse/Handscroll Ink on paper(29.8 x 56.8 cm)大坂市立美術館所蔵
「女性用上衣」Woman's jacket with manchijiao pattern of lotus pond and other vignettes/モンゴルの遺跡から出土Inner Mongolia Autonomous Region Museum所蔵
「家屋形状の埋葬品」Burial structure in the shape of a building Wood (高さ76.2 cm 長さ190.5 cm)  Gansu Provincial Museum所蔵
元王朝そのものは13世紀末から約100年間だが、今回の展覧会は、フビライが誕生した頃のモンゴル帝国の勃興に遡り、元朝が滅びるまでに光が当てられている。
 展覧会の特徴は、絵画や彫刻、金銀の宝飾品や陶磁器、漆器などの展示品の多さ。世界各地から集められた約200点が、「宮廷を中心とした都の生活」、「多様な宗教」、「モンゴル帝国史」、「美術工芸の円熟」の4つのセクションに分かれて展示されていてわかりやすいこと。中でも注目を集めているのが元王朝初期の工芸品。モンゴルと中国の文化が融合した独特の味わいが人の目を引きつけている。

 元王朝を中国に建設したモンゴル民族は、13世紀初め、ジンギスハンによるモンゴル諸部族の統一のあと、ユーラシア大陸各地へと征服運動を開始。その勢力は、東ヨーロッパ、ロシア、小アジア、メソポタミア、ペルシャ、アフガニスタン、チベットの広大な地域に及び、モンゴル帝国と呼ばれた。かのアレキサンダー大王の遠征を凌駕する勢いであった、と考えるとイメージがわきやすい。

モンゴル帝国第5代皇帝フビライハンによる中国支配は、それまでの中国王朝とは大きく異なった。元朝は中国支配を進める際、それまでの中国の統治システムを踏襲するのではなく、遊牧民の政治を移入した。すでに西方の優れた文化に触れていたため、窮屈な旧来システムを嫌い新風を中国に吹き込んだ。
 元朝時代の文化の多様性は、マルコ・ポーロの「東方見聞録」で知られるように、数多くの西方からの旅行者が中国にやってきたことと密接な関係がある。交易などのために「元」にやってきて、そのまま定住した西方の民族も多く、同時に有能な工芸職人たちの流入があったことが、元朝文化に一層の円熟味をもたらした大きな背景と言われている。
 我々日本人は「元朝」といえば、学生時代に習った「元寇」を想起する。13世紀、フビライは、南宋攻略の準備を進める一方で、既に服属していた高麗を通じ、南宋と通商していた日本にも元朝への服属を求めた。
 しかし、日本の鎌倉幕府・北条政権はこれを拒否、フビライは南宋と日本が連合して元に立ち向かうことを恐れ、1274年モンゴル(元)と高麗の連合軍を編成して日本へ送るも失敗(文永の役)。この時、宋代に発明された火薬が使用され、日本の武士団を大いに驚かせたという。
 こんなことを考えながらフビライハンの世界を覗くのも、楽しみ方のひとつかも知れない。

 展覧会には、日本から借り出された12点も展示されている。ユニークなところでは祇園長刀鉾(なぎなたほこ)保存協会所蔵の重要文化財の絨毯がある(第4セクションで展示中)。ただしこれは6週間のみの限定展示で、11月初旬には他の美術品と入れ替えが予定されている。
 マルコ・ポーロの眼に映じた(であろう)「フビライハンの世界」。めったにない機会をお見逃しなく。


「フビライの狩猟図」アフリカ系人物も交じり多様な人の交流が偲ばれるInk and color on silk (182.9 x 104.1cm) National Palace Museum, Taipei所蔵
2011年1月2日(日)まで
メトロポリタン美術館
1000 Fifth Avenue
Tel: 212-535-7710
日、火〜木9:30am〜5:30pm
金&土9:30am〜9:00pm
www.metmuseum.org