2021年6月11日号 Vol.399

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この世にどう自分を捧げられるか
鳥原 遊子
映画監督、役者

Yuko Torihara
・出身:東京都

Photo by Eric Jenkins-Sahlin

★これまでで代表する監督作品/出演作品は?
初めての長編映画は、イラン人監督のインデペンデント映画の「マキ」でした。ニューヨークに住む日本人の話で、セリフもほとんどが日本語です。監督と初めて会ったときに、原田美枝子さんが出演すると聞き、ずっと半分疑っていたのですが、脚本読みの時に本人が現れ、驚きました。原田さんは、ちょうど私が日本に住んでいた中学時代、映画「愛を乞うひと」がテレビで宣伝されていたのですが、その劇的な予告編を観て「こんな女性こそが女優だ!」と、女優の象徴・憧れの人でもありました。彼女こそが「日本女優の代表だ」と勝手に思っていましたので、原田さんと極寒なニューヨークの冬、インディ映画で共にお仕事できたのは貴重な体験でした。原田さんはとても優しく、初日に「現場は寒いからちょっとしたカバーを持ってくる方が良いわよ」と、私の緊張感を解してくれたことが忘れられません。スゥ〜と役に入り、想像の世界に飛ぶ彼女からは、たくさんのものを学びました。

★監督/役者の醍醐味とはどんなところ?
常に人間や社会について学べるところ、自分が成長する度に巡り会う作品が変わっていくところです。そのため、好奇心旺盛な人生が過ごせます。人間の過ちなどを素直に認めることがまた「表現者」になる方法のひとつであると考えると、人間として成長できる場でもあると思います。演技も映画もコラボレーションなので、それぞれの作品毎に「映画的なファミリー」が出来ることは、本当に幸せだと思います。



★映画監督として表現したいこととは?
色んなジャンルを自分の味で表現できる監督になりたいですね。少しシュールな作品、またはコメディなどで社会を鋭く観察する作品などが好きです。スペインのペドロ・アルモドバル監督作品は、笑えて泣ける。彼の映画を見終わる度に、人間についてまた一つ学び、自分も変われた、と思えるのはシネマ・マジックだと思います。また、やはりアジア人、日本人、女性として自分の視点、日々感じる事などを表現したい、自分が変わるにつれて作品も変わっていけたらと思います。あとは良いコラボレーター達と刺激しあい、良い作品を作っていきたい。一つのプロジェクトに留まらず長いキャリアとして、進んでいきたいです。

鳥原遊子監督「チャイナタウン・ビート」Photo © Chinatown Beat

★コロナ禍で増えた「アジア人ヘイト」を背景に誕生した短編ドキュメンタリー「チャイナタウン・ビート」について
小説家のヘンリー・チャンは本当に面白くてかっこいい人で、チャイナタウンのコミュニティの中では有名人でありながら身近な存在。私は、アメリカ映画にありきたりの「アジア人」描写には懲り懲りしているので、ヘンリーを、ヌワール映画の主人公のようにかっこよく、そして彼らしく撮りたいという願望がありました。また、製作1日前、ヘンリーの友人で、アジアン・アメリカンの写真家のコーキー・リーがコロナで亡くなったことから、自然とコーキーの存在が映画の一部になりました。コーキーは「Photographic Justice=ドキュメント写真」を通して社会正義をテーマに活動していたこともあり、この作品も映像によるactivismを、改革を目指すための行動であることを示唆しています。「渋くかっこいい70歳のアジア人男性が主人公」という設定のアメリカ映画は存在しませんし、クルーのほとんどがアジア人という環境で、「増えるアジア人ヘイト問題に対する抗議の一環」と位置付け、完成させました。

★今後の予定、 目指すことなど
監督としては、次の映画作品のプリプロダクション中です。役者として出演している作品は、デルタ航空の新しいキャンペーンで、8月に機内映像などで発表されます。あとヴェライゾンのコマーシャルで声優もやっています。ジャンル、国境を超えて活動したい。アメリカだけでなく、日本、ヨーロッパ、南米、アジアの監督ともお仕事したいです。人生、やれる限りは何でも挑戦してみたいので、役者として、人間として、どんな風に成長できるか、この世にどう自分を捧げられるか、と考え続け、今後も頑張りたいと思います。

yuko.torihara@gmail.com
www.yukotorihara.us
instagram.com/yukotorihara


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