2018年7月13日号 Vol.329

[第90回]
キャブに乗ったら「ハイ・ディア」


ここのところ、イエローキャブのメダリオン暴落だの、ドライバーの相次ぐ自殺だの、ウーバーやシティバイクのせいで儲けが減っただの、口を開けば愚痴が出てくるので、今回は反省し、ポジティブな内容にします。
僕はいつもナイトシフトなので、夕方5時からの運転。僕のデイシフトのパートナー(昼と夜、2人のドライバーが組んで1台のキャブを借ります)は律儀な男で、夕方4時には僕に車を渡してくれます。彼は、僕が住むアッパーウエストの近所に住んでいるので、車の受け渡しも便利。
自然、いつもその時間帯にアッパーウエストで運転を始めます。あの辺には私立の小中学校がいくつかあって、夕方4〜5時といえばちょうど下校時間。親やナニーがたくさん学校に子供を迎えにきていて、彼らがよく僕のキャブに乗ってきます。
子連れというのもあるのでしょうか、彼らとのやりとりはいつも心が和みます。まず、乗ってくるときの第一声が「ハーイ」ではなく、決まって「ハイ、ディア(Hi, dear)」。特に深い意味はないのでしょうが、「ディア」って言われて悪い気はしないのが人情ってもんです。それだけで一瞬にして僕の気分が和らぎます。
あるとき子供用の自転車を持って親子が乗ってきました。後ろのトランクを開けて自転車を入れてあげて、降りるときも出してあげるという、ごく普通のサービスをしたのですが、ものすごく感謝されて、たかだか10ドルくらいの運賃に4ドルもチップをいただきました。
あと、あえて人種差別的発言だと批判されることを覚悟でいえば、「白人の方が上客」みたいな先入観は僕の中にあって、実際多くの場合それは現実です。でも、アッパーウストの110丁目からハーレムに行きたいと乗ってくる、学校の迎え帰りの親子には黒人も多く、彼らからは一般的な白人よりずっと高い品格を感じます。そして我々に敬意を持って接してくれ、チップもはるかにいい。
チップについてさらにいえば、ナニーよりも実の親の方が弾んでくれます。友達の子供も一緒に連れて、大勢で乗ってくる親もチップをかなり弾んでくれます。短い間、彼らの会話を聞いているだけで心が和みます。彼らこそ「上客」ですね。
最近は、イエローキャブドライバーが混雑するミッドタウンを避けて、ハーレムまで北上して流すのですが、きっと、こうした親子連れと心休まるやり取りを楽しんでいるドライバーは、僕だけじゃないと思います。
皆さん、今度キャブに乗るとき「ハイ、ディア」と言ってみては? ドライバー側からすると、とても嬉しい一言です。(白石良一)



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