マディソン・スクエア・ガーデン内にあるワム劇場(WaMu Theater)を縦横無尽に駆け巡る。「絶対的自信」のあるマウンテンバイクをまるで、自分の手足のように操る。
「NYPD」(ニューヨーク市警)で脱走犯を捕まえる警察官の役だ。
昨年のオーディションで合格したが、つい最近まで世界の大舞台に出演するかどうかわからなかった。「夢みたいなことですね」。
10月11日に生まれて初めてニューヨークに来た。右も左もわからない中、いきなりリハーサル。
「英語も出来ませんが、全体の雰囲気で理解しているんですよ」と笑う。市内のアパートに出演者3人で住んでいる。解らないことは、アパートに戻ってからルームメイトに身ぶり手ぶりで細かく聞いて理解している。
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バイクトライアル歴14年というのが肩書きだ。96年にはマウンテンバイクの世界選手権エキスパートクラスでチャンピオンになっている。95年から02年まで全日本のチャンピオンでもある。この世界では右に出る者はいない。
日本では「マッスル・ミュージカル」に属している。01年「筋肉で音を奏でる」というコンセプトのもとに、他に類を見ない全く新しいパフォーマンスを生み出そうという試みから「マッスルミュージカル」という。
体操・新体操・空手・シンクロナイズドスイミングなど数多くの種目のアスリートが一堂に集まって、数々のアクロバティックショーやミュージカルを行うプロ集団だ。舞台に上がることができるのは、卓越した身体能力の持ち主ばかり。厳正なオーディションを勝ち抜いた精鋭たちが、まだ誰も観たことのない斬新なミュージカルの舞台に立つことを許された。
「マッスル・ミュージカル」ではスターとして大活躍だ。でも「シルク・ド・ソレイユ」の出演が決まったため来年までニューヨークで自慢の腕を見せる。
京都の出身。13歳からマウンテンバイクに魅せられた。「危ないから止めなさい」と両親から反対されたが、いきなりジュニア・チャンピオンになって親を説得。神戸の流通科学大学に進学したがマウンテンバイクは生活の一部だった。
「マッスル・ミュージカル」が創設されたと聞いて04年に入団した。だが、いつも世界を見ていた。「シルク・ド・ソレイユ」のオーディションがあると聞いてすぐ応募、合格というラッキーマンでもある。
「皆、長いことやっている人が多いんです。英語圏以外の外国人もいますから、親切に教えてくれるんです」とすっかりチームに馴染んでる様子だ。
両親に晴れ舞台を見せたかったが「飛行機嫌いなんです」残念がる。しかし「日本人が来てくれれば、勇気百倍です」と言ってにっこり笑った。
(吉)
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