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ロードアイランド州でスローイング・ミュージズ(以下T.M.)を結成した14歳の少女クリスティン・ハーシュは、以来、バンド、ソロ活動を継続するアメリカ人シンガーソングライター兼ギタリストだ。
今では4人の息子の母、そして作家という肩書きも増えたが創作活動は未だに衰えることがない。
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80年代中後期、ピクシーズと共にオルタナティブロックの先駆者的存在として、T.M.が音楽シーンに果たした役割は大きい。これらのバンドの特徴は男女混成で、ガレージロック、パンクのエッセンスを散りばめ、ギター中心のアレンジ、斬新なコード展開、甘美的なメロディーが混在していた。彼らは東海岸だが、ほぼ同時期に西海岸のシアトルで一大ブームとなったニルヴァーナを中心とする男臭いグランジロックとは明らかに異なるものだった。
クリスティンはT.M.と並行してソロ活動を通して20枚ものアルバムをリリースしているが、2004年には新たに50 FOOT WAVEというバンドをスタートさせる。
「50 FOOT WAVEを始めた理由はソロやT.M.にフィットしないスタイルの曲が25曲くらいたまったからよ。タイミング良く求めているサウンドが出せるメンバーが揃ってラッキーだった。私のお気に入りの新作もリリースされる予定だけど、50 FOOT WAVEで演奏するのってサーフィンとスカイダイビングを同時にやっている気分なのよ」とバンド活動も大いに楽しんでいる様子だ。
2007年になると、クリスティンは非営利団体「CASH Music」を創立する。ここでは、50 FOOT WAVEを始めとするアーティストの音楽が無料でダウンロードできるが、プロのアーティストというステータスを確立している彼女が、無料で音楽を提供する理由は何だろう。
「元々、CASH Musicと50 FOOT WAVEはリスナーに無料で音楽を聴いてもらおうと始めたの。一般音楽や音楽教育は企業の参入で破壊されてしまった。だから皆に『真』の音楽が簡単に見つけられるプラットフォームを作りたかったわけ。同時にレコード会社がリリースしてくれないような特別な音楽を創造するアーティストたちにチャンスを与える場でもあるの」
音楽の創作や演奏だけでなく、若手アーティストや一般リスナーたちが音楽を育み楽しめるコミュニティ、システム作りにも力を入れるクリスティン。
音楽を通しての現在の目標を聞いてみた。
「私はいつも、音楽が成し得ること、その力に驚かされたいのよ。レコーディングする時って、どういう風に響いて欲しいという明確なヴィジョンがあるのに、出来上がってみると、いつも違うものになっている。そういう良い意味での期待はずれが大好きなのね」
思い通りに音楽が奏でられたら、そこで野心もなくなってしまうのだが、そうは行かない、つまり音楽を続けることこそが彼女のライフワークなのだろう。
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最後に今回のコンサートについて語ってもらった。
「ルービン美術館(会場)では、アコースティックでやるの。観客と私の間には何もない状態ね。私の生の音楽が精神性を伴って鮮明に、そして深く聴き込んでもらえると思うわ」
クリスティンの音楽には、母の強さ、 女性の優しさ、少女の純粋さ、そうしたものが詩や音になって現われている。今回は、そんな「女性」の全てに触れることができる希少なコンサートになるだろう。
(河野洋)
Kristin Hersh
■7月26日(金)7:00pm
■会場:Rubin Museum of Art
150 W. 17th St.
Tel: 212-620-5000
■入場料:前売$30、当日$35
■www.rmanyc.org |