Copyright (C)2015 YOMITIME, A Division of Yomitime, Inc. All rights reserved
Vol.246:2015年1月30日号
イベント情報






 連載コラム

 [スポーツ]

 NY近郊ゴルフ場ガイド


 [街ネタ]
 おでかけナビ

 [特集バックナンバー]

 よみタイムについて
河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。
ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
「オンガク喫茶」のこぼれ話はブログ「ゼロからのレコードレーベル」

よみタイムVol.246 2015年1月30日発行号

伝統楽器に革命もたらす
新旧合わせ、未来へ繋ぐ
ジン・ヒ・キム



ジン・ヒ・キム(コムンゴ/玄琴)Photo by Patricia Santos


宮田まゆみ(笙)

ウー・マン(ピパ/中国琵琶) Photo by Patricia Santos
過去と未来の接点に音のしずくを落とす伝統楽器の演奏家たち。現代音楽は古典なくしてありえず。故に伝統を重んじることは未来への礎となる。
 韓国の伝統楽器と言えば、日本の箏にあたるカヤグム(伽?琴)が知られているが、他の国には存在しない独自のコムンゴ(玄琴)も存在する。コムンゴは、見た目は箏に似ており、ギターと同じ6弦からなり、スルデという棒状の撥(バチ)を使って弦を弾く古典楽器だ。
 そのコムンゴの女性演奏家として、世界に向けてその魅力を伝える貴重な音楽家の一人が、韓国インチョン生まれのジン・ヒ・キムである。
 「コムンゴは全長が6フィート(約180センチメートル)あり、子供では演奏できません。ですから、私は体が成長した高校生から始めました。当時、カヤグムは女性、コムンゴは男性という傾向があったので、『どうして女性が弾かないのか?』という思いから私はコムンゴを選びました。そして実際に弾いてみると、とても哲学的で、また瞑想的な音を生み出し、心底惚れ込んだのです」とコムンゴとの出逢いを語る。
 最近ではコムンゴ奏者の男性と女性の比率が逆転しつつあると言うが、それは30年以上もの間、女性ソロイストとして献身的とも言えるコムンゴへの情熱と活動に担うところが大きいだろう。
 1989年、キムは新境地に足を踏み入れる。伝統式コムンゴの弦数を6弦から8弦に増やし、アナログ・サウンド・プロセッサーを導入した電子コムンゴを開発する。1998年になると、音楽界に革命をもたらしたヴィジュアル・プログラミング環境、MAX/MSPを取り入れ、電子コムンゴは更に進化を遂げる。
 伝統式コムンゴは瞑想のポジションで床に座り演奏するが、電子コムンゴは椅子に座り、フットペダルでMIDIコンピューターシステムを操作する。コムンゴのサウンドはコンピューター・プロセスされ、アコースティックとデジタル・サウンドがブレンドし、独特な音の世界を創造する。
 「私は二つのコムンゴ(伝統式と電子)で21世紀の音楽を創作します」と力強く話すキム。コムンゴは、深い眠りにある未知の自己と宇宙空間を結び、神秘エネルギーを生み出す。ジン・ヒ・キムのオリジナル音楽と演奏は非常に瞑想的であり、リスナーをスピリチュアルな世界へも誘導する。
 また、キムは教育者として、これまでに米国で200以上もの大学で韓国伝統音楽のレクチャーをしてきた。
 「西洋では絶対音感やハーモニーなど理論的なことを教えますが、アジアではテクニカルなことだけではなく、演奏前の心の準備やエネルギーの使い方など、哲学的なことや演奏に対する姿勢も重要なエレメントとなります。音楽はエンターテイメントだけではなく、心の対話や瞑想の手段としても機能するのです」
 しかし、同じアジアの中でも、韓国、中国、日本ではアプローチが異なってくる。「食べ物のスパイスのようなものです。アジア人は皆、御飯や豆腐や麺など、同じ食材を使いますが、料理をする時のスパイスは国によって異なります。そのスパイスがソウル(魂)であり、違いなのです」
 音楽的な例を挙げると、日中韓では五音音階(ペンタトニックスケール)を用いるものの使い方が違う。箏楽器で言えば、日本は箏だが、韓国ではカヤグム、中国では古箏と、外観や構造は似てはいるが各国々で異なり、その違いは非常に奥が深い。

MFJ40周年音楽祭
日・中・韓が競演


2月7日(土)に開催される「ミュージック・フロム・ジャパン創立40周年記念音楽祭」では、ジン・ヒ・キムを含める日中韓の各伝統楽器の演奏者が一堂に会す。同非営利団体は、日本の現代音楽を紹介する目的で1975年、NYで設立。これまでに伝統曲や200名近くの作曲家による450曲以上を紹介してきた。
 今回は、日本の宮田まゆみ(日本の笙)、中国出身のウー・マン(ピパ/中国琵琶)、そして、韓国出身のジン・ヒ・キム(韓国コムンゴ/玄琴)の3人を招聘し、「日中韓音楽祭・東アジアの響き」と題し、アジアソサエティと共催する。
 アジアの隣国でありながらも歴史的な背景から、未だに国交問題や摩擦がなかなか絶えない日中韓だが、音楽の世界では世界平和の見本となるようなコラボレーションが行われている。この美しい音の共演は、歴史も国境も全てを超越し、異なるアイデンティティが同じ空間でいかに見事に融合できるかを証明してくれる貴重なコンサートとなるだろう。
(河野洋)

ミュージック・フロム・ジャパン創立40周年記念音楽祭
「日中韓音楽祭・東アジアの響き」
■2月7日(土)
●7pm:レクチャー・デモ ●8pm:東アジアの響き 
■会場:Asia Society
 725 Park Ave. Tel: 212-288-6400
■一般:土$40/日$25(両日$55)
 メンバー:土$25ドル/日$20ドル(両日$40)
 学生/シニア:土$30/日$22
www.musicfromjapan.org

★関連プログラム
■2月8日(日)2pm 
 ミュージック・フロム・ジャパン委嘱曲ハイライト III
 終了後、フォーラム『MFJ40年の歩み』開催